若干の性描写含みます。ご注意下さい! 苦手な方は、連載一回分とばしてもらっても、全然大丈夫ですのでっ(^^;;
長い一日が、終わった。 親友とテロリスト。 性質とやり方は違うが、どちらも厄介なことには間違いない二つの襲撃を受けたのだ。 今日は、間違いなく厄日だ。 むろん、目覚めたら猫化していた昨日の方がよっぽど災難度合いは高い、のだけれど。 「ロイー」 ロイの気も知らず。 呑気な声で、ヒューズが呼ぶ。 彼は、親友という立場をふりかざし、今夜の宿と一晩の護衛の役を同時に、当然の顔で手に入れていた。 「おい、ロイ、ローイ」 まだ、呼んでいる。 だから、その猫の子を呼ぶような呼び方はやめろっ!と心の底から怒鳴りたい。 が。 頭の上の、耳と。 尻尾と。 猫(の子、かどうかはともかく)に、間違いない今の身で、それを怒鳴り返すのも、どこか悔しくて、 ロイは罵声を呑み込む。 「おい、ロイー」 しびれを切らしたように、ヒューズが、呼ぶ。 そう。 当面の課題は、他にあるのだ。 シャワーを。 浴びなければいけないのは、分かっている。 けれど。 猫の本能が、水を嫌う。 「ロイ」 がしっ、と。 後ろから羽交い締めにされる。 「っ!ヒューズ、離、せっ!」 振り解こうとするのを、巧みな体術で押さえ込まれる。 忌々しいけれど、士官学校以来、十年。 格闘技で、ヒューズに勝てる確率は、四割を切っている。 「さぁ、風呂に入ろうなぁ」 に、と笑う。 その、親友の髭面を、心の底から、小憎らしいと思う。 が。 それでも。 一人で、自ら進んで風呂に入れないくらいには。 猫の本能とは、かくもやっかいなものだった。 ちゃぷん、と。 浴槽に半分ほど張られた湯が、音を立てる。 「ほら」 水が怖い、とは。 金輪際、口にしない、いや出来ないロイは、ただ不機嫌な表情で、ぎゅっと口を引き結び、壁の一点を 睨み付けている。 ヒューズに促されれば、ゆっくりと足を浴槽につけていく。 ぴん、とまっすぐな背中は、緊張こそ漂わせても、決して弱みなど見せず。 同じくぴん、と伸びた黒く艶やかな尻尾の方が、よほど素直に緊張と警戒を示している。 細く引き締まった、けれど必要な筋肉はきっちりと発達させた脚をそっと折り曲げて、浴槽に膝をつく。 ちゃぷん、とまた水音が上がる。 仕方ないなぁ、と。 ヒューズは、心の中で、溜め息一つ。 むろん、顔には、一切出さず。 「ほらほら、狭いんだから、もちょっと詰めろ」 ことさら朗らかに。ずうずうしく言い立てて。 一瞬の隙をついて、横抱きにロイを抱え込む。 「っ!ヒューズ、何をっ!」 一般家庭に比べれば広いとはいえ、立派な成人男子二人が入るには、どう考えても狭すぎる浴槽の中。 明らかに窮屈で不自然な姿勢を強要され、ロイが抗議の声を上げるのは、当然のことだけれど。 「ああもうお前は黙ってろ」 そんなヒューズの台詞よりも。 彼を黙らせるのに有効なのは、片手でひねられた水栓。 蛇口から迸る水音が、ロイの唇を引き結ばせる。 容赦なく、ロイの白い裸身を飛沫が濡らしていく。 不自然な姿勢をなんとか支えようとヒューズの背に回されていたロイの手に、ただ体重を支えるための ものではない、縋るような力が籠もる。 「痛、」 ヒューズの背に、爪を立てる。 ああ、この調子じゃ、爪伸びてるなぁ、と。 ヒューズは他人事のように思う。 これが。 寝室で、ベッドの上で。 快楽に喘ぎながら、立ててくれる爪なら、文句などないのだけれど。 水をかぶって、反射的に立てられる爪、なのだから。 なんとも複雑な表情になるほかはなく。 そうして。 その、複雑な表情のまま。 左手でしっかりとロイを支えたヒューズは、もう一方の手で器用にボディソープを出すと、するり、そ の手をロイの下半身へと滑らせた。 「うわっ!、ヒュー、ズ!?」 「洗ってやるから、大人しくしてろっての」 に、と口元には偽悪的な笑みを浮かばせて。 「ヒュー、ズっ、やめ……」 ロイが、抵抗する。 水にか。 ヒューズの手にか。 僅か震える、背中。 天鵞絨の感触の黒い耳と尻尾も、ふわふわの白い泡にまみれて。 「んー、ちょい我慢な」 ざぷ、と。 頭からシャワーの湯をかけられても。 驚くほど丁寧に、泡立てたシャンプーで髪を洗われても。 頭の隅の、仔猫の本能が、水を怖がって鳴きじゃくるけれど。 それよりも。 身体の内から突き上げてくる暴力的な快感に追い立てられて、考えることなどできなくなって。 「お、前……」 くて、と。 脱力した身体をヒューズに預けて。 恨みがましい口調で呟く。 「まぁまぁ」 その髪を、宥めるように撫でて。 抱き留める腕に、少しだけ力を籠める。 不埒な行為は、決して一方的な情欲に駆り立てられてのことじゃない。 ただ、彼の。 怯え、堪える顔など、見たくなかっただけで。 「ロイ」 とはいえ。 一旦開始してしまった行為に、雄の本能が目覚めてしまったのは、紛れもない事実。 「どーする、ロイ」 続けるか?と。 さすがに言葉にはしないで。 ただ、そっと彼の後ろへと触れた指で問う。 これで、NOと答えたなら。 決して、ヒューズは無理強いなどしない。 そんなこと、分かっている。 彼が、強引に不埒な行為に及ぶのは、ロイ自身がそれを望むか望まぬかはともかく、ロイのためでしか ありえないのだから。 沈黙と。 逡巡と。 それから。 胸の底の、どうしようもなく優しい、感情と。 「………」 降参、と。 少しだけ頑張って力を入れていた腕とか背筋から、力が抜ける。 ふにゃ、と。 頼りないくらい柔らかな身体を全部ヒューズに預けて。 それから。 合意の印に、伸ばした手で、ヒューズの口元をそっと辿る。 その指先を、ヒューズが銜える。 軽く噛まれた爪先さえ、鮮明な快感を背筋に響かせて。 「……マー、ス……」 半ば無意識に呼ばれた名前は。 柔らかに、蒸気へと溶けた。 「疲れた」 へたり、と。 力の入らない両足で立つことに失敗したロイは、あっさりその場でしゃがみこみ。 「すまん」 ヒューズはあっさりと責任を認めて、謝罪すると、よっこらしょ、とその肩を支えて抱き起こす。 ちょうどどちらかが酔いつぶれた夜、道を引きずって帰る時の要領だ。 ずるずる、と。 余韻もへったくれもない動きで、ロイをベッドへと移動させる。 「二度と貴様と風呂には入らん」 自力歩行を早々に諦めたロイは、けれどこちらはとっくに回復した口で、文句を繰り返す。 「だからすまん、って」 直接的な原因が自分である以上、こうなると、ヒューズにはただ平謝りする他なく。 「ヒューズ」 「はいはい、今度は……」 何だ、と聞き返そうとした言葉は。 ロイの、まっすぐな黒い瞳に見据えられて、止まる。 「ヒューズ」 「あ……ああ」 「……大丈夫、だから」 微かに変わる響き。 「あ?」 「水、くらい、私は大、丈夫だ」 明日からは。 ちゃんと一人で、風呂にも入るから 怯えた顔、なんて。 お前は、二度と見なくていい。 「分かった」 全然、分かってなんかいなかったけれど。 分かってなんて、やれないけれど。 それでも。 ヒューズは頷いた。 猫は、夜行性だという。 眠るかなぁ、と。 本当は、少しだけ疑問視していて、必要なら夜通し付き合ってやるぐらいの覚悟は出来ていたけれど。 ベッドに押し込んで、30分。 焔の二つ名を持つ錬金術師で、大佐で猫な親友は、エリシアなみの寝付きのよさで、もう夢の中だ。 たぶん、きっと。 今日も一日、とても疲れたのだろう。 その疲労の、何割かは、ヒューズ自身がもたらしたもの、だったりはするのだけれど。 いかんなぁ、と。 こっそり、ヒューズは自分を戒める。 ロイ・マスタングにとって、哀しんだり、苦しんだり、辛がったりという人間的な感情をきちんと持ち、 きちんと抱えていくことが、彼が人として生きていく上で、必要不可欠なかけがえのないものだ、という ことはよくよく分かっている。 優秀で協力で意外と如才ないくせに、妙にバランスの悪い彼が、そのつらさの隠さぬ相手として、他の 誰でもない自分を選んだことは、限りなく幸福なこととして、ヒューズの心にある。 だからこそ、時に厳しいことがあっても、自分は安易な慰めや正当化に陥ることなくロイの側にあろう、 と思う。 思う、けれど。 いざロイの苦しんだり、哀しんだりしている顔を見ると、もうどうしようもなく我慢できなくて堪えら れなくなってしまうのだ。 彼の心を其処から引き離すことが出来るなら、と。 不埒な行為に及ぶことでさえ、何の躊躇いもなくなってしまう。 耐えることを覚えなくてはならないのは、たぶん、ロイではなく自分の方だ、と。 少しだけ苦い自戒を胸に。 綺麗な三角形を描く耳を撫で、柔らかな髪を梳く。 この、ただでさえ何かと多難な親友の、さらに多難な前途に思いを馳せて。 (続) '04.04.17 |
第四話、ヒューロイ編・その2。 すみません、あっさり裏でした。(汗) ヒューズってばあっさりもっていきすぎ.....(^^;; 続きものなので、この話だけ隠すわけにも行かないなぁ、と やむなく修正版となりました。
もう少し長めの(苦笑)原版もこそりとUPしてありますので *18歳以上 で *ヒューズ×ロイという表記の意味が分かり かつそれに嫌悪感ない方 で *一般的ネットマナーをご存じであり、かつそれを守れる方 よろしければ、どうぞ。 *念のため* リンクはしてません。 アドレスを表記してありますので、手入力でお願いいたします。