「大佐」
慣れた声に、呼びかけられて。
ん、と。
顔も上げずに、返事をする。
「どーぞ」
ことんと置かれたマグカッブには、並々と満たされたカフェオレ。
常に人手不足の東方司令部に、お茶汲みなどという要員はなく。
男女差別はない代わりに、厳格な能力主義が存在する。
よーするに、手の空いたヤツが茶を入れろ、ということだ。
司令部主要メンバーの中では、比較的肉体労働担当になりがちのハボックは、だからこんな平和な
デスクワーク三昧の日には、少しだけ他の面々より手が空く確率が高い。
決して小さくはないロイ用マグカップを、親指と人差し指でひょいと掴むのを視界の隅で捉えて。
ああ、そーいえばこいつは手も大きかったな、と。
いい加減目の前の仕事に飽きていたロイ・マスタング大佐は、余計なことを考えた。
頭一つ分、身長は高いし。
肩幅だってあるし。
そうして当然のように手も大きければ、指も長い。
どれぐらい大きいか、というと。
ロイの尻を容易に片手に収めて、自在に揉みしだく程であり。
そんな奥にまでと思うほど深く入り込み、かきみだす程であるわけで。
………っていうか何を思い出しているんだ、私は!?
「大佐?」
「うわあっ!」
いつの間にやら仕事の手を止めてぼうっとハボックの手を眺めていたロイの顔を、ハボックが覗き
込んだのと。
ロイが、はたと我に返ったのは同時で。
「……大佐?」
「ななな何だね?!」
「顔、真っ赤ですけど?」
「っ!」
顔から、うなじから。どこもかしこもさらに真っ赤になったロイは、
「ああもうお前がいると仕事の邪魔だ!この山が片付けまで入ってくるな!」
と理不尽な文句と共に、ハボックを司令室から追い出した。
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