issued on 04.12.29
その年の合格者は、二人だと、後になってキンブリーは知った。一人だろうと二人だろうと、 余り意味はなかった。ただ合格通知を手に国家錬金術師機関に赴き、所定の手続きを経て銀時 計銘を手にした。 大総統直筆の書面によって己に与えられた「紅蓮」の銘に、さして感慨も涌かなかったけれ ど。 もう一人の合格者が「焔」の銘と知った時、不意に全てが意味を持った気がした。 もう一人が───「焔」の銘を与えられたのが、あの青年であったことをキンブリーは疑わ なかった。 「紅蓮」 そして 「焔」 まるで、対のような銘だと思った。 それが単に同期の合格者に対するちょっとした言葉遊びのようなもので済むはずはなかった。 対の言葉であるのなら。主格は焔であり、紅蓮は従属格であるはずだった。 面白い、と。 ゾルフ・J・キンブリーは、その日初めて、見知らぬ他人に関心を覚えた。 「焔」の名を持つ、彼───ロイ・マスタングという名の青年と。 そして、彼に「焔」の、自分に「紅蓮」の銘と業を授けた、大総統、キング・ブラッドレイ という存在に。 「焔の錬金術師、ロイ・マスタング……」 そっと、その名を唇に乗せる。 その音は、存外に心地よく、耳に響いた。 |
紅蓮×焔本です。 九城の散文は、 二人が国家錬金術師になったところから、 イシュヴァール戦の終戦までも捏造。 これまでサイトでちょこちょこと発表してきたものを 一部含めて再編しています。 脳内コンセプトとしては、 ロイちゃんのことが好きで好きで仕方ないキンブリーさんと ひっそりこっそりキンブリーさんが好きなロイちゃんのお話、です。 ...たぶん。 表紙&本文ゲストに、刻蒼東様。 ものすごく素敵な原稿をいただいてしまいました。 キンロイ好きな皆様に、ぜひお届けしたい一冊です。
いやもう、何と言いますか。 途中でPCが壊れて、原稿が消えるというアクシデントがあって ひさびさに限界見る思いで、作りました。 ゲスト様をお迎えする、というのは、ものすごい勇気と覚悟が要ります。 まず、何があっても落とせない、という、背水の陣となるわけですから。 しかも、九城が普段よくやるイベント突発コピー本は 「参加する(発行する)ことに意義がある」がモットーなのですが ゲスト本は、やっぱりそれだけじゃ済まない、と思うわけです。 読み手の方がどうこう、という言う前に まず、ゲストの方に対して、一対一の真剣勝負の気持ちで。 勝ち負け、ということではないのは百も承知ですが。 それでもいただいた原稿を拝見した瞬間、 ああもう自分なんて全然ダメだ、敵わないと思うのはいつものことで。 そりゃ惚れ込んでお招きする作家さんですもの、敵わないと思うのは当然で まるっきり太刀打ちできないとしても、せめて自分の最高・最良の作品で お迎えしたい、と思うわけです。 で、先にゲスト原稿いただいてしまったりするとその素敵さに無条件降伏してしまって 自分の原稿が哀しくなってしまったりするので(^^;; ゲスト様の原稿が来る前に自分の原稿にせめて目鼻つけておくことは大事です。 PCアクシデントに泣きつつも、逆にまだ時間のあるこんな時に諦められない、という ものすごい意地で頑張った一冊です。 どうぞ、よろしくお願いいたします。