・迷い犬・

issued on 04.06.27

 
     

「……っ」
 やられる、と思って。
 反射的に閉じようとする瞼を、強靱な意志でこじ開けた。


 ダメだ、と。
 分かっていた。
 
 ダメだ。
 ここで、目を閉じたら。
 本当に、やられる。
 
 避けろ。
 逃げろ。
 生き延びろ、と。
 
 心の奥深くから、本能が叫んでいる。


「………!?」

 だから、ハボックは、その光景をスローモーションの映画みたいに、とても
はっきりと見ていたのだ。

 今、まさに自分に向かってこようとしていたイシュヴァール兵達の一群が、
まるで松明のように次々と燃え上がっていく、その光景を。
 その、鮮やかな朱赤の焔と。
 断末魔の、悲鳴と。
 
 意識とか、判断とかそんな上等なものじゃなくて。
 本能が、危機の過ぎ去ったことを教えていた。

 ぎこちなく、周囲を見回せば。
 
 そこに、彼がいた。
 
 まだ燃え上がる焔を背に、そこだけくっきりと鮮やかな、青の軍服。
 将校であることを示す肩章まで、はっきりと見てとれるのは、優れた視力の
賜だった。
 

なんとか、無事脱稿しました。 3日前には、もうたぶん絶対無理、とか 思ってたんですけどね(^^;;    

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