「あー。お前さんとこにも来てたか」
リビングテーブルに無造作に放置されていた白い封筒を、ひょいとヒューズは摘み上げた。
この部屋に余人が訪れることはきわめて稀であるとはいえ、人に見られて困るものや触れ
られたくないものを放置するロイではない。
だから、ヒューズが勝手に見たところで差し支えないものしか置かれているはずはなく。
そしてヒューズはその封筒の中身を知っているに違いなかった。同じ差出人からの、同じ文
面であろう手紙は、ヒューズの元にも届いていた。
「行くのか?」
「顔を出さぬ訳にもいくまい」
面倒くさいがな、とロイは、顔を顰めた。
その表情ほどには、ロイがそれを嫌がっていないことは、ヒューズにはすぐに分かった。
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「お手をどうぞ」
「……?」
すっと、ヒューズが手を差し伸べる。
ロイにその意味を吟味する間を与えず、彼の手を掴まえ、引き寄せ、腰を抱き、滑らかに
ワルツステップに誘う。
「……、ヒューズっ!」
この馬鹿、何をする、離せ、と。
小声で抗議するまさにそのタイミングで、ホールから流れ出すのはラスト・ワルツ。
「一遍くらい、俺にも踊らせろや、ロイ」
強引だが、完璧なヒューズのリードに抗いつつ。
「……グレイシア以外とは踊らないんじゃなかったんか?」
無駄だとは思いつつも反論してみれば。
「グレイシア以外の女、と言ったろう?」
何でもないことと、ヒューズは笑う。
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