・手紙・


 その日。
 一通の手紙が、悟浄の家のポストに配達された。
 ポストを覗きにいったのは、八戒だった。
 町外れの悟浄の家に、郵便屋さんが回ってくるのは、昼過ぎのこと。
 といっても、そもそも郵便屋さんが回ってくる事自体、ごくごく稀なことだったけれど。


 猪八戒様、と。
 宛先は、確かに自分で。
 自分に手紙が来ることなど予想もしていなかった八戒は、一瞬だけ驚き戸惑った。
 むろん、差出人は、すぐに分かった。

 猪八戒、という名前を持つ人物が、この家に暮らすことを知っている人間なんて、
この世の中には数えるほどしかおらず。
 そして、封筒いっぱいはみ出しそうに大きな幼い字で宛名を書いてくる相手など、
たった一人しか八戒には心当たりがなかった。

「なんだ?」
 ポストの前で立ち止まって動かない八戒に、家の入口から悟浄が声をかける。
「手紙です。悟空からですね、これは」
 裏を返して。 
 差出人を確かめるまでもない、と。
 八戒は、柔らかく目を細める。
「ふーん」 
 八戒が見せる封筒へと、悟浄はちらりと目線を遣って。
「きったねぇ字」
 そう、笑った。
 手紙の内容は、ごく他愛のないことばかりだった。
 寺の近くの饅頭屋に、栗饅頭が並び始めたこと。
 昨日食べた肉饅のこと。
 三蔵に怒鳴られて。言い返して。殴られて。
 それから、仲直りしたこと。
「……相変わらずですよね」
 そう、目を細めて。
 柔らかく笑って。
 
 そのまま。
 八戒は、動かなかった。
 
 自分の知らない時に。
 自分に宛てて、書かれた手紙。
 自分の知らないところで。
 自分のことを思ってくれている人がいる。
 その、事実が。
 八戒を立ち止まらせる。

「……八戒?」
 怪訝そうな悟浄に。
 なんでもない、と首を振り。
 安心させるように、笑いかける。
 
 こうして。
 今、目の前で。
 八戒を見ていてくれる人と。
 遠く。
 見えないところで。
 八戒の、今ここにいることを知っている人達と。

 その人達の、まなざしの中に。
 自分の、今、確かに存在することの不思議さを、想う。
 
 


 それは、秋の初めの、一日。
 存在の、始まりを記す日のことだ。






'02.09.24  p.m.10:08

 

 

すみません。 天蓬の日更新、といいながら、 中身は 3日遅れの八戒さんBDネタでした。 八戒さんに先立つこと数日の 今年の誕生日。 九城は、何人かのHappy Birthday メールと すごく素敵なお祝いをいただきました。 ありがとうございました。 その時の 「嬉しい」と「ありがとう」を 八戒さんに託すとこんな感じの落書きになりました。 心当たりの有る方は、 どうぞ受け取ってやって下さいませ。 Library Top / Entrance