Heavenly Peace

   微かなメロディーが、鼓膜に触れる。
   決して耳障りな音質というわけでもなければ、無視できない音量でもない。
   ならば、もう綺麗さっぱり無視してしまえばいい。
   そうお世辞にも気が長いとは言えない金蝉は、自分に結論づける。
   
   けれど。
 




   年の暮れまで、あと1週間というその日。
   いつものように己の執務室で机に向かい、黙々と書類を片付ける金蝉の後方、壁に背を預けて、
  片膝を抱えた子供みたいな姿勢で座り込んでいるのは、生憎もう子供とは呼べない年格好まで成長
  した天蓬だった。
  
   これが、そのいじけたような姿勢そのままの幼さのままの少年であったなら。
   決してその微かなメロディを無視することを己に決定づけなくてもよいのに、とどうにも解決に
  ならないことを考えて、金蝉はまた書類へと向かう意志を見失う。
  
   途切れ途切れ、金蝉の鼓膜を震わせるごくごく小さなメロディの出所は、間違いなく彼であった。  
   天蓬が歌うところなど、ほとんど見たことも聞いたこともないが、この天界にも下界にも美しい
  歌は、溢れるほどにある。
   その一つを天蓬が口ずさんだところで、別段取り立てて騒ぐほどのことではないはずで。
   そんなこと、金蝉だとて百も承知だ。
  
   けれど。
  
 
 
   最初に、天蓬が歌っているのを耳に留めた時。
   金蝉は、率直に尋ねたのだ。
  
  「何だ?」
   と。
   
   それぐらい、天蓬が人前で歌うなんていうのは、稀だったから。


  「は?」
   
   天蓬は、といえば。 
   きょとん、とした顔で、金蝉を見上げて。
  「どうかしましたか?金蝉」
 
  
   それは。
   まるでシラを切っているとは思えない、どう見ても無作為な笑顔で。
  
   では、無意識か、と。
   金蝉は、特に、追求しなかった。
  
 
 
   それから、数度。
   微かなメロディは、流れ出しては、金蝉が振り向くよりも前に止まって。
   そのまま。
   天蓬に、問い質すタイミングは、失われるばかり。
  
 
 
 
   天蓬だって、歌ぐらい歌うだろう。
   そんなことは、分かっている。
   その、見たことも聞いたこともない、歌を。
   金蝉でさえ、聞き及んだことのある遙か異国の聖歌を。
   何故よりによって、今日、此処で口ずさまなくてはならないのだ、と。
  
   その。
   尋常でなさ、が。
   金蝉を、落ち着かなくさせる。
 
 
 



   不意に。
   後ろですっくと立ち上がる気配がした。
  
  「どうした?」
  「いえ………お邪魔しました」
  
   振り返れば。
   いつもの、笑顔。
   強く。 
   しなやかに。
   振り返らない、彼の、笑顔。
 
 
  「……ああ」
 
   だから。
   何かあったのか、とは。
   決して、問わない。


 
 
   ただ。
 
   無表情に、歌を口ずさむ。
   そんなひとときが、彼に許されてもいいだろう。
   
   それが。  
   自分の背中で、あるなら。
      
  
   ────望む、ところだ。
  
 
 
   
 
 
 
 
 
 
   Silent night, holy night!
  
   All is calm, all is bright,
  
   Round yon virgin mother and child!
  
   Holy infant so tender and mild,
  
   Sleep in heavenly peace
  
   Sleep in heavenly peace!










  '03.12.23  p.m.03:41
 
 

Merry X'mas to All Dear Visitors! おひさしぶりです。(苦笑) いつも以上に寒い12月ですが、皆様お元気ですか? 九城は、きっちりぶったおれました。 それでも、意地でも更新したかったクリスマス。 天蓬で描く4度目のクリスマスです。 金の髪で白い衣裳で、悟空を膝に抱いてたりすると 金蝉はさながら聖母マリアだと思うんですけど。 ……果たしてご同意いただけるものか(^^;;    いちお、そんなコンセプトの今回の話でした。 よく分からなくてごめんなさい……。