僕はこの瞳で嘘をつく
「捲簾大将。軍規違反にて、10日の謹慎と減俸を言い渡します」
二日前、自分が片付けたせいで、机の上はともかく床にはまだ空間のある天蓬の執務室。
後で部屋まで来て下さい、と。
廊下ですれ違い様、囁かれた言葉に、さして甘い期待をしてきた訳でもなかったけれど。
いきなりのそれは、やはり、痛かった。
手を出してきたのは。
向こうだ。
自分は、降り掛かる火の粉を払っただけ。
それでも。
自分に責任を押しつけ。
処分することで、己の身の保全を図ろうとするなら。
この、男も。
今までの無能な上司と何ら変わらないではないか。
そう、失望しかけて。
心の何処かが軋むのを感じる。
なんだ?
自分は。
まだ、この男に。
期待、したいのか?
そんな。
自分の心の動きに、何より吃驚した。
「なぁ、その台詞俺の目を見て言える?」
それが。
彼の本心でないことを。
こんなにも、期待して問いかければ。
その、揺らぎもしない、翡翠の瞳で。
ひた、と。
見つめ返して。
「捲簾大将。軍規違反にて、10日の謹慎と減俸を言い渡します」
きっちり、同じ台詞を繰り返して。
それから。
「捲簾大将。僕は、あなたが好きですよ?」
笑いもしなければ、惑いもせずに。
視線を、捉えたまま。
さらりと、言ってのけた。
全てが、嘘で。
全てが、本当。
信じるも。
信じないも。
全ては、この自分の、胸ひとつ。
ならば。
嘘も真実も。
したたかに、たおやかに、沈めたあの瞳で。
彼が、何を見ているのか。
知りたい、と。
願った。
'03.05.19 a.m.01:59
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