生徒会室



 天宮。

 その広い城内の、敷地の一画。
 天界軍の使用する棟もある。
 その、天井高く広い廊下を、コツコツと靴音を響かせて、捲簾は歩いていく。

 見慣れた廊下。
 見慣れた窓から見える景色。
  
 その、マイペースでいて、決して不必要に乱れることない足取りが、一つの扉の前で止まる。
 扉には、表札が一つ。
 

『生徒会室』


「………またマニアックなものを」
 
 この、見慣れた情景の中で。
 ただ一つ、見慣れない表札を前に、捲簾はぼそりとそんな感想を洩らした。
 よく見れば裏面をガムテープで貼り付けただけ、という俄拵えな取り付け方が、この部屋の主の性格の一端を
また顕著に反映しているようで。

「おーい、生徒会長、いるかー?」
 捲簾は、この表札の内側にいるべき人物に向かって、おそらく最も相応しいと思われる呼称で呼びかけつつ、
扉を開いた。
「おや、書記長」
 珍しく覚醒していて、しかもちゃんと椅子に座っている天蓬が、しかもちゃんと返事をした。 
 
「何で書記長?」
「…よろしく」
 天蓬は、指で机の上に積まれた書類を指す。
 その手で長剣をふるい、銃を握るのだとは、にわかには信じ難い細くしなやかな指だ。

「そんなこったろうよ」
 今さらそれぐらいでは、呆れない。
 そんな程度には耐性のついた自分を褒めるべきか嘆くべきか、判断の難しいところだ。 

「ああでも、惜しかったですね」
「何がだ」
「僕的には副会長が適任かと」
「あそ」

 部屋の主を、きわめててきとーにあしらいつつ。 
 ふと、思い返してみた。



 いくら最上階とはいえ。
 仮にも元帥の執務室。
 表示くらいないのか、と。
 いつだったか、捲簾が軽く文句を言ったのがきっかけだった、と思う。

「何なら書庫とでも書いて貼っておいてやろうか」
 そう捲簾が軽口を叩けば。
「ああそれ良い案ですね」
 天蓬は真顔で頷いた。
 

 頷くだけなら、他にもやるヤツはいたけれど。
 無精でいい加減な癖に、変な行動力だけはあるのが、天蓬元帥で。

 以来。
 捲簾は、毎回毎回、違った部屋を尋ねる羽目に陥っている。


 まるで。
 捲簾がくるタイミングを、完璧に見計らっているかのように。
 
 書庫。倉庫。
 配膳室なんてのもあれば、ナースステーションなんてものもあった。
 
 その度、捲簾は、違う呼称で天蓬に呼びかける。



「んで、副会長さんよ」
「はい?」

 しれっ、と。
 天蓬は答えるけれど。

「……やっぱ、あんま似合わねーな」
 そう。
 捲簾はひとりごちる。


 色々、呼んではみたけれど。
 彼に一番似合うのは。

 西方軍軍隊長の「副官」だ、なんて。


 絶対、天蓬には教えてやらない。

 




'03.05.24  p.m.09:14 
 
 
 

100題、挑戦第二作目。 一作目が、見るからに捲×天のお題なら、これは 「いったい、捲×天で、これをどーしろと(泣)」 というお題でした。 んで、困りそうなものは、先に片付けてしまおう、と思った途端、 こんなネタになりました。 ああ天蓬でよかった、という感じです。 大丈夫。 この人がいれば、どんなお題もきっと不可能じゃないわ。 100 top / Library / Entarance