肯定の言葉が欲しかっただけ

 

1・

「カーテン、付け替えてみたんですけど、どうですか?」
「いいんじゃねーの?」


「今回の作戦ですが、やはりここのこの地形は活かすべきだと思うんですよね。特にこの山側。ここは下からの
見通しはきかないけれど、ここ、この辺りからは、西側の平野が一望できると言っても過言ではありません。
ですから、ここに先陣をおいて………」
「ふーん………ああ、いけるなぁ」


「襲いますよ」
「お手柔らかにどうぞ」






 一つ一つは。
 取り立てて、何ということもない、普段の会話。
 
 けれど。
 その日。

 天蓬が、それに気付いたのは、ある意味、虫の居所が悪かった、のかも知れない。



 
「捲簾、貴方、僕の言ってることちゃんと聞いてます?」
「ああもちろん聞いてるぞ?」
「てきとーに、うんうん、頷いときゃいいなんて思ってないでしょうねぇ?」
「ああそうだねぇ」
「捲簾っ!」
 ばんっ!と机を叩いて。
 天蓬が怒鳴る。
 バサバサ、と音をたてて。
 衝撃に耐えられなかった、書類の山が崩れていく。
 
 じゃあ、どうして?
 
 問い詰める言葉を、呑み込んで。
 天蓬は、捲簾を睨み付ける。
 
「……だって、お前、もともと人の意見聞かねーし」
 ぼそぼそ、と歯切れ悪く。
 まるで拙い言い訳をする子供のように、捲簾が口の中で何やら呟いている。
 
「捲簾」
 そんなフリでは、誤魔化されない、と。
 天蓬は、ついと目を細め、既に鋭かった視線を更に尖らせる。



───じゃあ聞くけど。

   なのに。
   俺に言うのは、何で?
 

  

  
2・
 
 あれは、いつだったろう。
 他人の意見なんて、求めたことのない天蓬が。
 やけに。
 話しかけてきた日。

 何の、変哲もなかったあの日さえ。
 今では、予兆に彩られて見える。
 
 
 あの日。
 自分が。
 天蓬への、言葉を選んでいたのは、知っていた。
 

───だって。

   いつか。
   お前が、思い出すのが。
  
   ダメ、とか。
   違う、とか。
   否定の言葉じゃ、哀しいだろ?


   いつか。
   俺が、お前の隣にいられなくなった時。
 
   思い出すのは───。




 
3・

『ねぇ、捲簾』 

 僕達、これでよかったんですよね。

 返ってくる言葉は。
 もう、ないけれど。

 胸の中で、問いかければ。


『ああ』

 今も鮮やかに、耳に残る。
 彼の、言葉。

 それでいい、と。
 
 自分の、遙か行く末までをも、肯定してくれるような。
 彼の、言葉。





 微かに、記憶をかすめる遠い会話。

 あの日、彼は。
 話を聞かずに、ただ頷いていたのではない。


 
 予兆のような、あの日。

 ただ、記憶に残るのは。
 








 ──────永遠に消えない、存在の肯定。







'03.06.03  p.m.10:44

ひさしぶりに、頭の中にあるものを言語化するのに手こずりました。 いや、お題って、やっぱり難しいわ、と 三題目にして、改めて認識。 精進あるのみ! 100 top / Library / Entarance