陽さくら

   風の強い日だった。
 
 

   行かねぇ?と。
   手を引かれたから。
 
   何処へ、とは問わずに。
   重いはずの腰を上げた。
  
   ああ。
   この男と知り合ってから、ずいぶん自分は身軽になったかも知れない。
 
   歩きながら、全然関係ない方向を見て、少しだけ、そう思った。

   天宮を離れて、遠くまで歩いた。
 
   こんなに歩くなら、馬とか車とか使えばよかった。
   そう思わないでもないけれど。
   一面の菜の花の真ん中、細くぬかるんだあぜ道をいくのに、幾ら何でもそれは無粋に過ぎるだろう、と  
  思い直した。
 
   どんどん歩いていく左手には、確か小さな小川が流れていて。
   そのささやかな土手沿いには、等間隔で並ぶ桜並木。
  
   まるで。
   下界の春を歩いているような気分だった。
 


   ざああ。
 
   風が吹き抜ける。
  
   菜の花畑が波打ち、桜の花枝がたわみ揺れる。
 
   一呼吸の間をはさんで。
   ふわり。
   花吹雪。

   無数の小さなもんしろちょうが、空に飛び立つように。
   はなびらが、風に飛び立っていく。

  「知ってっか?」
  「……はい?」
  「下界もな、今が春だ」

   たかが、花見。
   けれど。
   見たい花さえ自由に見れない、無数の規則の中に。
   軍隊である自分達もまた、組み込まれていて。
  「………タイミング良く出兵なんて、無いもんですねぇ」
 
   そう。
   青い空を見上げて、ひとりごちる。
 
  「まったくなぁ」
  「出兵なんて、無い方がいいのに、決まってるんですけどね」
 
   人の心を、乱すのは。
   桜の開花加減。
   ただ、それだけでいいはずなのに。



   ────光、のどかな。
       終わらない春の日に。





 
'03.04.09  p.m.08:23

 ひさびさのアップは、当然のように桜。
 今日の午後、郵便局に行ったら、風が強くて、花が散ってました。

 
 毎年、今年の桜の感想は、 SSとして残すことをなんとなく自分に課してます。
 あと二つ、今年の桜ネタはあるんですよね。
 さっさと書いてしまわないと。

 タイトルは、阪急電車の、今年のキャッチフレーズを無断拝借。
 対になってるので、そっちも使いたいです。






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