花供養


「何やってんだ?」
 問い掛ける捲簾の声が、不審に満ちたものになってしまったのは、きっと無理のないことだった。


 白衣の裾を大きく前にからげて。広げて。
 そこを籠代わりに、降りしきる花びらを受けて。集めて。
 行為としては認識できるものの、行動としては理解の範疇を微妙に踏み外している。
「ああ捲簾、いいところへ」
 捲簾の問いは、あっさりと通過され。
 天蓬は、にっこりとそれこそ花のように笑って、手伝っていただけませんか、と捲簾に要請した。
「手伝うって、何を?」
 その行為の何を手伝え、と?
 捲簾がさらに不審の色を濃くすれば、手近な枝を揺すれ、という。
「……ああ」
 確かに、花びらを集めるには、てっとり早い理にかなった方法やも知れない。
 結局、何のために、とは答えられないまま。
 捲簾は、天蓬の促すまま花枝に手を伸ばし、やや手荒く揺すってみる。
 ひらひら、というよりは。
 むしろどさっと、花びらが降ってくるのを、天蓬は目を細めて、受けとめる。
 そんな行為が、幾度か繰り返され。
 天蓬の白衣の裾には、花びらの小山が出来上がる。

「こんなもの、ですかね」
 花びらを、見下ろし。
 満足げに一つ頷くと、天蓬はゆっくり歩き出す。
 来い、とも言わず。
 来るな、とも言わず。
 捲簾の、自由に任せて。

 天帝城の裏庭から、人のほとんど通ることない裏の小道を抜けて、城外へ。
 ぺたんぺたんと、ゆっくり便所下駄が歩みを刻むたび、ひらひらと一枚二枚、花びらが零れ落ちていく。
 まるで。
 天蓬自身が、溢れんばかりの花を咲かせた、花枝の一つであるかのようだ、と捲簾は少し離れて後ろを歩
きながら、想う。
 何処へ、とも問うことなく。
 まるで散策でもするかのような、のんびりとした足取りで天蓬は歩いていく。
 やがて、緑豊かな平原へと続く辺りで足を止めて。
 大きく、一呼吸して。
 そうして、小道を少し外れた辺り、一本だけやけに大きく立つ不自然な木の元へとあと少し足を進めた。

 木の根元には、まるで人目につかないほどひっそりと立てられた石碑が一つ。
 墓碑だ、と。
 捲簾は直観した。


「……本来、天界に、死は存在しないものですから」
 
 埋葬という風習の入り込む場所は、この天界には、結局なくて。
 
 死なないはずの、天界人の死は。
 こんな風に、城境という境に地、外でも内でもない、つまりは何処でもないことを象徴する地に、葬られ
るほかなかったのだ。
 
 
 昔、部下を死なせたことがある、と言った。
 これが、その彼の墓標なのだ、と気付いた。


「………」
 
 一度、大きく、空を仰いで。
 祈るように、目を閉じて。
 それから。
 天蓬は、からげていた白衣の裾からおもむろに手を離した。

 ふわり。
 折からの風に、すべての花びらが一斉に舞い上がる。
 舞い上がり。
 そして。
 墓碑の上へと降り注ぐのだ。
 
 
 
「彼も、花が好きでした」
 花が、好きで。
 そして、同じように花を愛する天蓬を、慕っていた。
 
 だから。
 
 彼の死を悼む、こんな日には。
 鮮やかな花吹雪を贈るのだ。
 あの、狂おしいほどに華やかな花並木には、あまりに遠い、この静かな辻に眠る者へ。
 せめて。
 華やかな、花を。
 この手で。


 
 

'04.04.03  p.m.10:29
      

 桜が咲いたら、捲×天が書きたくなる。
 これは、もう、自動思考みたいに、脳内に強くインプットされてしまったようで
 あたり前のように、彼らが浮かんできます。


 「花供養」という言葉。
 本来は、お釈迦様のお誕生日の4月8日の、お祭りのことを指すようですが。

 ここでは、単に「供養」にかかる言葉としてお受けとり下さいませ。





 Entrance  /  Novel Top