向日葵

 太陽が高い。
 夜明けが早くなり、日没が遅くなり、気温が日毎上昇していく。 
 季節が変わる。
 
 夏が、来る。

 八戒が、庭、というか家の周りの地面を何やらいじってるらしいことは、春先から知っていた。
 花を植えたり。
 ちょっとした野菜を植えたり。
 トマトにキュウリ。ゴーヤーに茄子。
 素人の家庭菜園でも意外としっかり野菜が穫れて、しかもかなり美味いんだということを、悟浄は日々の食卓から学んだ。
 きわめて実用的なそのラインナップを、悟浄はとても八戒らしい、と思っていた。

 
 だから。
 朝──といっても実質的には昼前だが──目が覚めた時だけでも、じっとり肌に汗が滲むようになった、ある日。
 窓の外に広がる光景は、一瞬、悟浄を驚かせた。

 
 窓の外には、満開の向日葵。
 大きなものでは、人の顔ほどもあろうか、というほどの、鮮やかな黄色に縁取られた花が、一斉に咲き揃っていた。
 太く長い茎は、皆、まっすぐに伸びて。
 どの花も、真夏の強い太陽に向かって、凛然と咲いていた。

 眩しい、と。
 悟浄は目を細める。
 太陽の色だ、と。
 そう思った。

 真夏の太陽に向かって。
 顔を上げて。
 真っ直ぐ、立ち向かっていくかのように、咲いている花達だ。

 その、花達の向こうに。
 八戒が、いた。

 向日葵の花と同じように。
 まっすぐに立って。
 しっかりと顔を上げて。
 
 太陽を、見ていた。
 
 
 そうだ。
 それでいい、と。

 心の奥から、そう思った。
 
 
 時には。
 長い雨の夜もあるだろう。
 嵐の朝も迎えるだろう。

 けれど。
 それでも。
 太陽を向いて咲く、その花のように。

 光に向かって。
 顔を上げて。
 まっすぐ、立て───と。
 
 心から、願った。
 

 家の周りに、向日葵の種を蒔いたのは、春先のこと。

 
 トマトやキュウリや。
 育てやすくて実用的な夏野菜の苗と共に、一袋、向日葵の種を買ってきた。
 
 春の、優しく儚い花達は、心慰めるよりも、還らぬ人の思い出を募らせたから。
 夏の。
 揺るがぬ強い花が、見たかった。

 はかないばかりの、人の想いも、営みも。
 地上の全てを灼き尽くすかのような、真夏の太陽を。
 一心に追って咲く、太陽の色の花が見たかった
 

 その花のように。
 まっすぐに、太陽に向かって顔を上げようと思った。
  
 その花のように。
 まっすぐ。
 
 彼に向かおうと思った。

 熱せられた地面には、陽炎。
 大気の温度が、上がる。
 
 その、真夏の道を、まっすぐに、彼が来るから。

 向日葵の咲くように、顔を上げて。
 笑った。

 季節が、変わる。
 夏に、なる。

'02.07.21 p.m.04:49

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