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圧力、と。
感じられるような、熱量。
直射日光。
蝉の声。
下界。
夏。
この時期に、行動を起こすのは、彼ら地上の妖怪にしてみれば、ある種の理に適ったことなのかも知れない。
理解は、出来ないけれど。
利点は、確かにある。
彼らにとっての「敵」である、天界軍にとって、明らかに不利なのだ。
むろん、彼らは訓練された軍人である。
暑いからといって、顕著に動きが鈍るわけでもない。
が。
所詮は、常春という温室に育った天界人の群だ。
過酷な気象条件の下では、それなりに士気も削がれる。
本来持てる能力を十二分に発揮できる、とは言い難い。
「あち………」
拭っても拭っても滲み出てくる汗に、捲簾は、僅かに顔を顰める。
これぐらいで、力が弱るはずもないが。
不快さは、隠せない。
絶対、早く終わらせてやる。
そう、心に誓う。
日没。
太陽が地平へと完全に姿を消した頃合いには、少しは心地よい風も吹くけれど。
限界いっぱいに蓄えられた地表の熱は、なかなか冷めることもない。
おそらく、今宵も熱帯夜だ。
哨戒に当たる部隊の者達は、緊張を解けないけれど、その他の者達は、それぞれに割り振られた天幕に分散して、しばし休息のひとときとなる。
それは、指揮官たる捲簾達とて、同じこと。
「おい、氷!調達してたろ?」
「は、はいっ!」
通りすがり。
捲簾に問われて、小走りに氷を取りに行く下士官が一名。
天幕の中では、予備の弾薬類の箱に紛れ込ませて、持ってきた古びた段ボールを、天蓬が開いたところだった。
上部には、特徴的に大きなハンドル。
鋭い爪が付いた円盤。
切り込みの入った台座。
よく見れば、切り込みには、鋭い刃物が取り付けられているのも分かる。
古い、使い込まれた鋼鉄製のそれには、「削氷機」とある。
よーするに。
かき氷を作るあれだ。
やけに年代物じみているのは、少し前、天蓬が下界の骨董品屋で見つけてきたものだからだ。
こんなに早く、これが役に立つ時がくるとは、と。
明らかに、天蓬は機嫌がいい。
こっそり公費で調達した氷一貫分を台座に乗せて、ハンドルを回して固定する。
ガリガリガリと、派手に音を立てて、たちまち細やかな氷の砕片が椀に溜まっていく。
まずは、二椀分。
準備周到、というべきか。
ちゃんとどこからともなく鮮やかに赤いイチゴシロップのボトルが出てくるあたり、確信犯である。
「あー、美味い」
暑い夏には、これが一番、と。
溶けてしまえば、まずは山盛り口にして、その冷たさを満喫する。
それから。
「よーし!手の空いてるヤツから来な!とびきり美味いもん喰わせてやるぞ!」
そう、大声で呼べば。
野営地のあちこちから、何事か、と兵達が顔を覗かせる。
「ああ、空いてる容器持ってこいよ、手ぶらで来んなー」
そう付け加えて。
食べかけのかき氷を見せびらかせば、どっと歓声が上がる。
我先に、と。
子供ような顔で集まる兵達に、天蓬は至極ご満悦な表情で氷をかいてやる。
食べる、ことよりも。
かき氷という存在そのものが、天蓬には楽しいらしい。
溶けてしまえば、ただの着色砂糖水にしかならない、儚い食べ物だけれど。
今、この時にしか感じることのできない美味しさ、というのが、人には確かにあるのだ。
永遠に続く春の、天界では、決して味わうことのできない美味が。
「暑ぃ」
ぱたぱた、と。
既に十分はだけている軍服の前をさらにはだけて、仰ぎながら、捲簾が呟く。
けれど。
それは、もう、先ほどまでの不快さだけを訴えるものではなく。
夏。
穏やかな春の世界に生きる天界人が、暑さに弱いのは、事実だけれど。
暑さにささやかな楽しみを見出せるくらいには。
したたかな者達も、いるのだ。
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