・存在SIZE・
目の前には、黒と、メタリック。
キーボードの砦の色。
その向こうには、眩いばかりの白色。
赤。
青。
もう一度、強い白の、ピンスポット。
視界を凶暴に埋め尽くす色彩の中で、有栖川マヒロは、いつもの如く無表情だったから
不意に、彼を捉えた疑問のことなど、誰も気付くはずはなかった。
───あれ。
ふと、気になって。
けれど、条件反射のように、手は止まらない。
これ、ぐらいでは。
───真崎君って。
背の、高い人でしたっけ?
最近出来たばかりの、昨今の流行にのっとって天上の広い大人数収容型のライブハウスの、
ホールに比べたら明らかに小さく、けれどライブハウスという語感からは少しだけ大きすぎる
感のあるステージの上。
その日の、真崎桐哉は、ひどく大きい人物に見えた。
その。
ふとした疑問をもう一度思い出すには、それから数日の時差があった。
よくよく観察してみようかと思ったけれど、人より聴覚の良い代償か。
目で見て測れるものに、有栖川の執着はそもそも薄かった。
何センチ、なんて数字を聞いたところで。
それが、自分の疑問への答えになるとは、はなから考えてもいなかった。
だから。
特に、大した意味もなく。
ただ、ほんの少し気になって。
気が付けば、腕を伸ばしていた。
「……おい」
ひどく迷惑そうに、一言だけ。
桐哉は、その腕を振り払わなかった。
一歩遠ざかるごとに、遠近法によって、少しずつ確実に彼は視覚の中で小さくなっていく。
離れてしまえば、もう。
彼という身体的存在の、本当の大きさは、やっぱり分からなくなるような気がした。
けれど。
彼の、肩の位置とか。
目線の高さとか。
そういうものを、この腕は、いつかひどく鮮明に思い出すのではないか。
そんな気がした。
「何の真似だ、オマエ」
ぽつん、と。
不思議な間をおいて。
やっぱり大して興味なさそうに、桐哉が尋ねた。
別に隠すことでも誤魔化すことでもなかったので、有栖川は、ステージの上で、桐哉の大きさ
分からなくなった、ということを説明した。
「……無駄」
有栖川の説明に、少しだけ桐哉の機嫌は降下したようだった。
「そうですか?」
無駄ではない、と主張する気も、有栖川にはあまりなかったけれど。
桐哉が何を言うのかぐらいは、聞いてもよかった。
「確かめられなきゃ意味ねーだろ?」
あそこで。
あの、ステージの上で。
電気仕掛けの砦の内に籠もる有栖川は、決して、生身で歌う桐哉のカタチを、こんな風に
確かめたりはしないだろう。
「……ああ、そうですね」
それでも。
この目で。
この腕で。
彼を、真崎桐哉を測ろうとしたのは、紛れもなく、己の意志で。
ただ。
この耳で。
彼を、知るのでは、飽きたらず───。
'03.05.20 01:53
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