彼を──手塚国光を──よく知らぬ者であれば、気付かないであろうけれど。
表情乏しく見えて、確実に和らいでいる空気。
和らいでいる表情。
誰よりも。
研ぎ澄まされた、鋭利な一瞬と。
柔らかに、和む一瞬と。
その、どちらもが。
自分に向けられるものであることに、悦びを憶える。
予告なく、唇を重ねる。
上唇。下唇。歯列、と。
ゆっくりと舌で舐めあげていく。
跡部は、強引だけれど。
決して、性急に陥ることはなく。
確実に、着実に、相手を攻め落としていく。
絶対に、隙などなくて。
だからこそ。
手強い、相手なのだ。
終わりなんて見えない。
見たくなんてない。
二人だけの、時間。
「遠慮するなよ、跡部」
耳に流し込まれるのは。
聴き覚えのある台詞。
あの時とは、まるで違う響き。
「思いきりこい」
可笑しそうに。
愛しげに。
これは、故意か。
天然か。
思わず。
跡部は、手塚の顔を伺ってしまう。
挑発。
誘惑。
言われなくたって。
遠慮なんて、できるものか。
そう。
心の中で、言い返す。
手加減なんて、してやらない。
泣かせても。
傷つけても。
ありったけの自分で。
求めあい、惹かれあうことしか。
できない、二人だから。
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