AT/7

 
 
 
   手塚国光が。
   自分の腕を──自分のテニス生命を──犠牲にするかも知れないリスクをおかしてまで、
  何故あの時、あえて持久戦に持ち込んだのか。
   何故、と。
   何人もが、手塚に問うた。
 




 
「何で、あんなことをした?」
 それは。
 当の跡部にしても、そうだった。
 
 仕掛けたのは、跡部なのに。
 受けてたった自分を責めるような、その口ぶりが、どこか幼い子供の駄々のようだった。

「攻め急げば、こちらに隙が出る。隙を見せれば、負ける。それも、お前の計算の一つだろう?」
「てめぇが本当にそれで負けるようなたまかよ」
 しらじらしい、と。
 跡部は、言い切るけれど。
「当たり前だ」
 さらにしれっとそう言い切る手塚に、跡部は手塚の本性を垣間見た気になった。
「俺を再起不能な迄に叩きのめして勝つのがお前の目的だったかも知れないが。……俺はその
程度では潰れない」 
 いったい。
 この身体の、どこからそんな自信が湧いてくるのか。 
「……偉そうに」
 跡部は、忌々しい、とばかりにそう低く呟く。
 
「じゃあ、その肩は何だ!?え?何で今お前は、関東大会を一人離れて、こんなところにいや
がるんだ!?てめえの手で青学を全国に導くんじゃなかったのかよ!?」
 それは。
 突然の、激昂。
 跡部の、感情の激しいことなら、知っている。
 知っている、けれど。
「跡部?」
「俺がっ!どんな想いだったかなんて!てめぇは考えたこともねーんだろうがっ!…いっつも
いっつも……」 
 苛立たしくてたまらない、と。
 まるで今にも地団駄を踏んで、泣いて暴れそうな子供のように。
 跡部は、言葉を詰まらせ、唇を噛む。
 
 そんな跡部に、手塚もまた言葉を失い。
 長すぎる間の後、ぽつりと呟いた。
「……考えて、いるが」
 お前なら、どう攻めるか。
 お前なら、どう仕組むか。
 
 その、静かに控えめな抗議は。
 跡部の怒声に、忽ちかき消される。
「ああん?どーせ、どう俺なら攻略するか、とか今度はどう攻めるか、とかっ!コートの上の
ことばっかりだろう!」
「……」
 図星に過ぎて、手塚は、黙り込む。
「はん、そんなことだろう」
「跡部……」
 
 跡部が、何に怒り。 
 何を言わんとしているのか。
 
 手塚にも、分かっている。
 分かっては、いるが。
 それを、伝える適切な言葉を。
 あいにく、二人とも持ち合わせていないだけだ。
 

「この、バカが」
 自分だけは潰れない、なんて。
 呆れるほど、無邪気な自信で。
 限界線を踏んで。
 結局、今、つらいのは、誰だ?
 
 二人。
 ごく近くに向かいあったまま。 
 にこりともせず。
 長い、けれど決して気まずくはない沈黙を共有する。
 
「すぐに戻る」
 やがて。
 沈黙を断ち切ったのは、手塚だった。
「それも、てめぇ得意のはったりか?」
 わずかに、皮肉めいたいつもの口調を取り戻して、跡部が言い返す。
「事実だ」
 手塚は、表情を変えないまま、そう言い切った。

「あの、うぜぇ連中と離れて、せえぜぇ羽でも伸ばしてくるんだな」
 捨て台詞のように、そう言い残して。
「じゃあな」
 用は済んだ、と。
 跡部は、なんの躊躇いもなく手塚に背を向けた。
 
「跡部」
 考える前に。
 手塚は、跡部を呼び止めていた。
「あぁ?」
 振り返る跡部に、かけるべき言葉は、咄嗟には見つからず。
「……」
「また、な」 
 ひらり、手を振って。
 跡部は、振り向かなかった。

      

本日の日記SS。(笑) トレーディングカードゲームという代物を知人に見せて貰いました。 むろん、先日発売の、氷帝戦Ver. んで懐かしくなって、跡塚戦のアニプリを見直したら こんなSSになりました。 contents