・千跡 03・

 

 

「あれ、珍しい」



 千石は、目敏い。

「あ?」
「マフラー。それ、手編みでしょ?」

 出逢って。
 ひさしぶり、も言う前に。
 跡部の首を指差して、そう指摘した。
 
 普段は、見るからに極上品の、とても品のいいグレイシュブルーのカシミヤのマフラーを、 
ごくさりげない感じで巻いているのに。
 今日に限って、ざっくりと編まれた、おしゃれだけど、でもやっぱり素人の、それもあまり
編み慣れていない子のお手製、というのがありありと分かってしまうマフラーをしてる。

 跡部は、たいそう女の子にもてる。
 そして、その上、ひどく残酷で。
 そういう人間なのだと、分かっているけれど、やっぱり胸が痛む。

「……いいなぁ」 
 貰えることが、羨ましいのか。
 貰ってもらえることが、羨ましいのか。
 何だか複雑だ、と。
 
 千石は溜め息一つ、つく。
 
 三秒ほど彼にしては珍しく黙ったまま、千石を見下ろしていた跡部が、何かに思い至った
ように、おもむろに口を開いた。

「羨ましいか?」
「うん」

 何が、とは。
 言えないけれど。

「やんねーよ」
 にやり、唇の端を引き上げて、性質の悪い笑み。
「いらないよっ」
 貰えるわけないじゃん。
 何考えてるんだよ、ってそーゆーこと言うから跡部くんだって分かってるけど。
 少しだけ、怒りを露わにした千石に。

「俺様の、手作り」
「………」
 してやったり、と跡部が宣言する。
 
 言われた台詞が、耳から脳に届くまで、たっぷりコンマ数秒。
 反応は、さらに遅れて。
 これだから。
 見えても動けないくせに、と。
 跡部に蔑まれるのだ、と。
 関係ないことまで考えて。

「えええええ?何ナニ、何だいそれ」
 
 なんて、ことを。
 それは、もう羨ましいとか羨ましくないなんてレベルではなく完璧に完敗で。
 
「あん?てめえんとこにはねぇのか?」
 ちょっとだけ意外そうに跡部が聞き返す。
「は?」
「家庭科」
「………あー」

 そう、でした。
 不覚。

 千石は、小さく項垂れる。
 中学生の必須科目。
 家庭科。
 山吹中では、3年生の初めにエプロン縫って終わりだったから、思いつかなかったのだ。
 まさか、氷帝の家庭科に編み物があった、とは。

 やんねーよ、と。
 彼は、言うけれど。
 つまり、それは。
 千石にくれる、なんて発想が、そもそも跡部の中にあるっていうことで。

「あのさぁ、跡部くん」
「あぁ?」
 何だ?と。
 あくまで横柄に、だけどちゃんと、答えてはくれる人に。
「今日、寒いよね」
 膝を屈めて。
 5センチの身長差を8センチくらいに割り増しして、上目づかいに見上げてみたりして。
 おねだりするところから。
 始めてみようか。

 

すみません、季節外れも甚だしいです。(泣) マフラーとか、寒いとか。 でも、まさか相応の季節になるまで置いておいたら、絶対腐ってます。 中学生の必須科目、家庭科ネタ。 ちなみに、もう少し続く予定です。 千石手作り編と、鳳×宍編。   contents