・千跡 7・



 



「……ああ、なるほどな……」
 さっきからずっと、真面目な顔でテニス雑誌を呼んでいた跡部が、ぽつりと呟くのが聞こえた。
 
 
 跡部の自室。
 彼は、当たり前に自分用のソファに、悠然と腰掛けて、膝の上の雑誌をゆっくりと読み耽り。
 千石は、といえば、フローリングの床の上、これまた千石用と化しつつあるクッションを抱えて、
跡部の本棚から勝手に出してきた雑誌を読んでいた。
 
 
 
「何が?」
 ひょい、と敏捷に身体を起こして。
 跡部の斜め後ろに立って、上体を屈めて、彼の手元を覗き込む。…… 否。 
 覗き込もう、と。
 した。
 
 まさに、その、タイミングで。
 ぱたん。
 跡部は、雑誌を閉じた。
 
「………おいおい」
「あぁん?」
 反射的に洩れたのは、なんとも情けない声と。
 それに対する思いきり不審そうな、跡部の返事と。
 
 
 

 跡部景吾、という人間は、基本的に根性が悪い。
 少なくとも千石は、そう思っている。
 意地悪で、素直じゃなくて、情け容赦ない。
 
 けれど。
 そうやって、イヤガラセされた時には。
『ほらもう、跡部くんてば素直じゃないんだから』
 そう笑いとばせるくらいの、余裕は。
 自分にもあるのだ。
 
 こんな風に。
 当たり前に、存在を無視されてしまっては。
 どうしたらいいんだろう、と。 
 なんとも情けなくて、不安になる。
 
 跡部の、自室に入れて貰えて。
 こんなすぐ近くにいられて。
 それで、その存在を忘れ去られるくらいには、跡部は千石に気を許している。
 それは、分かっている。
 頭では。 
 十分に。
 


 背中越し。
 千石が立ちすくんでしまったのは、伝わったのだろうか。 
「……」
 小さな溜め息一つ、洩らして。
 跡部が、再び、雑誌の頁を開く。
 ぱらぱら、と。
 さっきまでには見られなかった、少し忙しない調子で頁をめくっていく。
 
 ああ。
 さっきの頁を探しているのだ、と。
 すぐに分かった。
 
 
 
 何も言わない──何も言えない、不器用な跡部が。 
 それでも。
 千石を気に掛けている。
 それは、分かるから。
 
「跡部。遊ぼ」
 うざい。
 うっとおしい、と。
 振り払われるのなんて、百パーセント、予想の内だったけれど。

 背中越し、跡部に抱きついて。
 感情の見えない声で、そう話しかけた。

     

  本日の後輩くん's、実話ネタ。 微妙にお互い距離感があるのも 千石と跡部には、似合う気がするんですが。 そして、ついにせんべssが現時点での最多CPになりました。   contents