「……ああ、なるほどな……」
さっきからずっと、真面目な顔でテニス雑誌を呼んでいた跡部が、ぽつりと呟くのが聞こえた。
跡部の自室。
彼は、当たり前に自分用のソファに、悠然と腰掛けて、膝の上の雑誌をゆっくりと読み耽り。
千石は、といえば、フローリングの床の上、これまた千石用と化しつつあるクッションを抱えて、
跡部の本棚から勝手に出してきた雑誌を読んでいた。
「何が?」
ひょい、と敏捷に身体を起こして。
跡部の斜め後ろに立って、上体を屈めて、彼の手元を覗き込む。…… 否。
覗き込もう、と。
した。
まさに、その、タイミングで。
ぱたん。
跡部は、雑誌を閉じた。
「………おいおい」
「あぁん?」
反射的に洩れたのは、なんとも情けない声と。
それに対する思いきり不審そうな、跡部の返事と。
跡部景吾、という人間は、基本的に根性が悪い。
少なくとも千石は、そう思っている。
意地悪で、素直じゃなくて、情け容赦ない。
けれど。
そうやって、イヤガラセされた時には。
『ほらもう、跡部くんてば素直じゃないんだから』
そう笑いとばせるくらいの、余裕は。
自分にもあるのだ。
こんな風に。
当たり前に、存在を無視されてしまっては。
どうしたらいいんだろう、と。
なんとも情けなくて、不安になる。
跡部の、自室に入れて貰えて。
こんなすぐ近くにいられて。
それで、その存在を忘れ去られるくらいには、跡部は千石に気を許している。
それは、分かっている。
頭では。
十分に。
背中越し。
千石が立ちすくんでしまったのは、伝わったのだろうか。
「……」
小さな溜め息一つ、洩らして。
跡部が、再び、雑誌の頁を開く。
ぱらぱら、と。
さっきまでには見られなかった、少し忙しない調子で頁をめくっていく。
ああ。
さっきの頁を探しているのだ、と。
すぐに分かった。
何も言わない──何も言えない、不器用な跡部が。
それでも。
千石を気に掛けている。
それは、分かるから。
「跡部。遊ぼ」
うざい。
うっとおしい、と。
振り払われるのなんて、百パーセント、予想の内だったけれど。
背中越し、跡部に抱きついて。
感情の見えない声で、そう話しかけた。
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