・aqueous・


「暑いなぁ」  
 曇りなく真っ青な夏空を見上げて。
 マース・ヒューズは、もう何度目かになる呟きを口にした。

 軍服で迎える、初めての夏だった。  
「こう、ざばぁっと水浴びでもしたいよなあ」
 無理を承知で、そんな子供じみた願いを口にする。
 でなければ、いっそ。 

「お前さぁ、雨降らせるとか出来ねぇの?」
 そう言って、ヒューズは隣に立つ友人を見遣った。
 でたらめで非常識だが、使い方さえ間違えなければそれなりに有効なもの、と ヒューズは、その友人、ロイ・マスタングの特技を把握していた。
「理論的に不可能ではないが……こっちのが得意かな」
 十分この暑さにへばっているであろうロイは、少しだけ面倒くさそうに視線を中空に固定した。
 それは、ヒューズには見えないものを見る瞳だ。
 頭上高くに、焦点を定めて。
 手袋をはめた右手で、ぱしんと指を鳴らす。
 ぽん、と上空で軽い破裂音がした。
 一瞬後、ざぁとシャワーみたいに、勢いよく水の飛沫が降り注ぐ。
「うわっ!」  
 空は、青。
 変わらぬ青。 
 ごくごく小さな、真っ白な雲のがちぎれて流れていくだけの、晴天だ。  

 04暑中見舞いより。
 
暑中見舞い再録と、他一本。

 


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