「ハボック曹長」
 これを、今週末迄に提出しなさい。
 そんな言葉とともにホークアイ少尉に手渡されたのは、見慣れぬ書式の書類の束で、何の報告書だっけ、と首を傾げてぱらぱらと捲ってみれば、どうも様子が違う。
「…へ?願書?」
 目に留まった単語に、自分でもかなり間が抜けてると思える声を上げれば。
「何言ってるの?養成科へ行くんでしょう」
 いついかなる時もきりっとした少尉が、少し口調を変えた。
「はぁ?なんスか?それ」
 願書?
 養成科?
 一体全体本当に何の話だ?
 ハボックの頭上で、幾つもの疑問符が点滅する。
「……呆れた」
 心の底から呆れた、というように、ホークアイが溜め息をついた。
「えぇ?いやちょっと待って下さいよ!何のことだか」
 何がなんだか分からないが、とりあえずホークアイ少尉に呆れられるのは恐い。
 慌てるハボックに、すかさずホークアイが付け加える。 
「ああ呆れたのは貴方にじゃないから」
「……はぁ」
「本人の意思も確認せず話を進めてたとはね」
 まったく、あの人は。
 呟くホークアイの指す「あの人」など、たった一人より他にありえなかった。
 

こんこん、とノックだけして、返事も待たずに執務室の扉を開ける。
 東方司令部の実質司令官であるロイ・マスタング中佐は、お世辞にも司令官らしく見えない、きわめてやる気のなさそうな表情と態度で、のろのろと書類にペンを這わせていた。
「少尉から書類貰いました」
 部屋に入ると同時に、そう告げれば。
「……」
 ちらりハボックの方に向けた視線に、何の感情も読み取ることはできず。
 それが偽装なのか本当にまったく分かっていないのか、識別することは難しい。 
「専科学校の」
 だめ押しみたいにそう付け加えれば。 
「……ああ」
 今度は視線を向けもせず、小さく返される答えに、ああやっぱり思いきり故意の確信犯かと裏付けを得た。

   拍手においてました、遠距離恋愛。
   なんとか形にしてみました。

   コンセプトは、若造ハボックかな。

   シリアスのつもりでしたが、出来上がったら、なまぬるい日常話になりました。
   うっかりえろを追加したら、R−18になっちゃいました。