・not yet・

 もう、貴方を抱いてあげられない、と。
 彼は、とても彼らしくない静かな諦めたような笑顔で言った。

「……腕」
「え?」
「抱き締めていろ」
 自分がどんなひどい顔をしているかの自覚はあったから、彼の肩に顔を埋めたまま、そう言った。

「……ロイ」
 困ったように、慰めるようにハボックの腕がロイを包み込む。  
 違う。
 慰められるべきは、自分じゃないのに。  

「……この腕で抱き締めることもできなくなったら」  
 そうしたら。
 ちゃんと、貴方にお別れが言えますかね。  
 そう呟いたハボックがどんな顔をしているのか、確かめることなんてできなかった。    

「抱き締められないなら、私を見ていろ」  
 
 私を、見て。
 名前を、呼んで。
 そして、笑って。  
 それだけで、いい、と。  
 
 縋り付いた手をそのままに、掠れる声で、ロイは呻くように、言う。  

「……見えなくなったら?声が出なくなったら?」  
 どこか呆然と問いかけて。
 
 それから。  
 酷いことを言ってますかね、俺。
 そう、自嘲するように付け加えた。    

「鼓動を、聞かせろ」 
 ロイの声は、もう震えてはいなかった。
「……心臓が、止まったら?」
「安心しろ。………その時は、ちゃんと見送ってやる」  


 だから。  死が、二人を分かつまで。    
 どうか、その日まで──────。             




 「not yet」

 実はこれは、サイトver.だった、もの。
 ぷれ代わりに、今だけ復活。

 本は、これのハボ視点です。
 


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