・夜の童話・


「おやすみ、よい夢を」

  死んだはずのヒューズ准将を見た、という噂がセントラルに流れ出したのは、数日前のことだった。
 自分が殺された電話ボックスの前に立っていた。軍法会議所の門の前に佇んでいた。資料室にいた。
 噂に信憑性などなかったが、目撃譚はひどく具体的で、どれもヒューズが「出て」も不思議のない場所ばかりだった。
 
 幽霊、などと非合理的なものをロイは信じなかった。
 恨みや執着などというものでこの世に残れるなら、とっくの昔にロイは何万人もの幽霊と遭遇していなければおかしかった。


 だから。
「よぉ」
 雨の、夜。
 見慣れた軍服に黒いコートを羽織って。
 軍人らしく傘は持たないまま、頭からぐっしょり濡れて、ロイが新しく借りた家の門扉の影に佇んでいた彼が、記憶にあるものと寸分違わぬ姿と声で、呼び掛けた時。

 かつて組み立てた人体錬成の理論を、静かに頭の中でさらい、自分が実現不可能だと判断したその理論の最後一片を埋めたものは何だったのだろう、と考えた
  




「The Dark Side of The Moon」
  アニメベース。びみょーに黒ヒュな話。
 
 他、SS3つ程収録。


 全体通して、びみょーに薄ら暗い、ヒューロイ詰め合わせ本です。


  


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