・Valentaine Kiss・


「チョコレートなんて」 
 絶対だめです、というリザの言葉に、逆らうべくもなく。
 ロイは、山のようなチョコレートの包みを一つたりとも紐解くことはできなかった。
 ロイの頭の上とお尻には、猫の耳と尻尾という余計なものがついていて、見た目にも猫だったが、目に見えないところも色々猫化しているせいで、何かと不自由を強いられていた。
 その一番が、食べ物だ。
 通常の食事では猫化したロイの健康を損なうということで、少しでもロイの身体に負担がかからないよう、毎日リザがお弁当を作ってくれている。
 その、リザが食べてはいけない、というものを、あえて無視してチョコレートを食べようという勇気は、少なくとも今のロイにはなかった。
 たとえ、デスクワークをしろ、という言い付けになら、幾らでも背けるとしても。
 執務机の横に山と積まれたチョコレートも、今年ばかりは、苛めでしかなく。
 ちらり、色とりどりの包装紙に目をやっただけで、ロイは再び目の前の書類と向き合った。



 ああ、凹んでいるなぁ。
 もともとお世辞にもいかついとは言えない肩をがっくり落として、耳も尻尾もだらりと垂れた見るからに哀れみを誘う姿で、執務机に向かうロイをちらりと眺めやり、ハボックもこそりと溜め息をついた。
 いや仮にも東方司令部のナンバー2ともあろうものが、と思わないでもないのだけれど。
 だけど。
 ただでさえ、猫耳と猫尻尾のせいで凹んでいるというのに。
 大の甘党のロイが、あの山のようなチョコレートを前にお預けをくらっているのだ。
 さぞかし不本意で、さぞかし落ち込んでいること、だろう。
 
 ロイは、甘いものが好きで。
 チョコレートは、ことのほか大好きで。
 口づけたロイからは、時おり甘くチョコレートが香って。
 甘いものなんて苦手で、あの甘ったるい匂いを嗅ぐだけで胸焼けしそうだったハボックが初めて美味しそうと思ったほどで。
 
 ……ああ。 ということは。
 
 ふと、ハボックは思いついたことがあった。



   こんな感じで。
   「軍の猫」設定ですが、「軍の猫」本編より、三倍くらい甘いハボロイです。