知っているくせに



「じゃあね、正臣。また明日」
「紀田君、また明日」
「バイバイ!杏里!帝人も!」
 サンシャイン前の五叉路で、手を振って別れる。
 友人の後姿を見送る、その耳元に。
「ふぅん『紀田君』は巨乳好きだったっけ?でも沙樹はおっきくないよね」
 囁く声は、甘く。耳に心地よく。
「……っ!?」
 紀田正臣を機能停止させる。
「臨也さん……っ!?」
「巨乳好きなんて紀田君も案外普通の男の子だなぁ」
 がっかりだ、と失望と蔑みの色も露わに臨也が呟く。
 その瞳に、僅かだって傷ついた色を読み取っりなんかしてはいけない。
 これは彼の常套手段。他人を惑わせる。
「えー、好きに。決まってるじゃないですかっ、ロマンですよ、男子の!」
 だから嗤う。

 ロマン、なんて。
 遠くに在りて、思うもの。

 本当に好きな人に胸なんてないこと、は。
 その人が一番知っているくせに。
 知っていて、わざと、そんなことを言う。

 それが、折原臨也だ。






臨也さんに弄られる正臣