三角の断章



 かっこいい喧嘩をする、と言われていたらしい。
 少し憧れる、と言っていたのだと。
 そう聞いたのは、人伝てだったので、その人の真意は分からない。

 粟楠会、という名前くらいは知っている。
 いちおう静雄だって、借金の取り立て業という裏社会側で生きているのだ。
 ぜってぇ近づくな。
 上司で先輩である田中トムにも、きつくきつく念を押されている。
 
 関わるつもりは、なかった。
 暴力は嫌いだ。
 暴力で物事を片付けようとする奴らも嫌いだ。
 
 自分の力が嫌いだった。
 壊すことしかできない自分が嫌いだった。
 けれど、あの事件をきっかけに、ほんの少し自分を認めてもいいと思えた。

 だから。
 たとえ大嫌いな暴力に物を言わせている連中だと知っていても。
 
 そんな風に自分を語ってくれた人がどんな人なのか、興味はあった。



---


「かっこいい喧嘩、と。そう仰ってたそうですね」
 にこりと笑うその表情はいつもどおりを装っても、棘を隠しきれていなかった。
 珍しいと思い、すぐに不思議はないと思った。
 折原臨也という情報屋は有能で隙がなかったが、ただ一人平和島静雄に関わることに関して常軌を逸した執着を示すことなら、彼を見ていれば誰でも気付くことだ。
「嫉妬か?」
「は?」
 心外どころか訳が分からないという顔をしたのは、演技かうっかり覗かせた本心か。
 さてこれは案外図星だったか。
 四木は、ひっそりと胸の内で笑った。
 ただしその嫉妬が、「四木が」臨也の宿敵である静雄を褒めたことに向けられているのか、あるいは自分以外の誰かが「平和島静雄」を語ったことに向けられているのか、四木には判然としなかった。





四木さんがシズちゃんをかっこいいと言っていたのがとてもツボ


この頃は四木臨と静臨、てつもりで考えていたのですが
最終的にオフ本の「Cry for the Moon」になりました