疑惑


 赤鬼、青鬼と己と並び称される青崎。
 四天王として挙げられる四木、風本。
「専務」、幹哉。
 粟楠会の幹部である彼らと、直接、対決したことはない。
 いずれも、ただ者でないことはわかる。
 だが、いかほどのものなのか。
 その強さを確かめたことはない。

 確かめてみたい、と。
 武闘派、といえば聞こえはいい。ただ暴力によってしか他人をはかり、他人と関わるすべを知らなかった不器用な男の、本能にも近い欲求だ。

 事務所の、隅では、二人の部下がイヤホンをつけて小さなアナログテレビの画面を睨んでいた。
 テレビの横には、積み上げられたDVD。
先日、粟楠会の系列の風俗店から男と共に逃げ出した女が、とあるAV会社が出しているAVに出演しているという話がタレこまれた。
 確かめなくてはいけない、と若いのが二人、そこのレーベルのAVを片っ端から確認する羽目になっていた。

「こう、Kー1じゃなくて、A−1、みたいにさ。粟楠会無制限一本勝負、とかやってみたくないかい?お前さん達だって、おいちゃん達のどっちがどう強いか、興味あんだろ?」
 タイミングが、悪かった。
 決して枯れているわけではないがAVに興味もない赤林は、部屋の隅で気の毒な若い衆二人が前屈みになって、画面の中に裏切った女の姿を探していることも半ば失念していた。あいにく赤林ほどシンプルでない残る部下達は、ちらちらとその小さなアナログ画面を伺っていた。
 今、まさに画面の中では、リングを模したステージの上、全裸寸前のきわどい格好で女達が、格闘技という名目のローションプレイで、くんづほぐれず絡み合っているところだった。

「……」

 不幸な部下達の多くの脳裏には、腕比べの名目で絡み合う幹部達という衝撃的な想像がよぎり、今思い浮かべたことは決してこの世の誰にも知られてはいけないと、一様に青ざめた。

 赤林の、ゲイ疑惑がひさびさに再燃したのは、無理もないことだった。






1/9インテの粟楠会プチ用に作った
無料配布赤林さんペーパーから再録

柄が悪くてかっこいいおっちゃん達好きです