猫の日なので
 (いざにゃ1/8 設定)







 最近、平和島静雄が図に乗っている。


 折原臨也としては大変遺憾なところだ。
「シズちゃんのくせに」
 
 特に、新月の時期がひどい。
 その時期であれば、絶対に彼の目的が達成されることを学習してしまったのだ。
 平和島静雄のくせに。

 だから、新月後の喧嘩は、一際激しい。
 これまでなら九割方臨也が逃げ切ることで勝敗を持ちこされてきた彼らの戦争は、新月時期には、八割の確率で静雄が臨也の捕獲に成功するまでに勝率が逆転した。
 由々しき事態だと臨也は憂いている。
 
 だが、それもこれも、元はと言えば自分のミスによるものだ。
 
 
 
 全ての人間を愛すると標榜している折原臨也は、実のところ完全には人間ではない。
 身体の中を流れる血の八分の一はケットシーと呼ばれるケルト由来の猫妖精だ。
 そしてその血の割合に比例して、月の八分の一を猫の耳と尻尾を有する少年の姿で過ごす。
 ケットシーの姿になる間、自室に閉じこもり誰とも会わずに過ごすことで長い間己の秘密を保ってきた臨也だったが、先日重症インフルエンザに罹ったことをきっかけに、その特殊体質が来神以来の友人達にばれてしまった。具体的には静雄と門田、それに新羅とセルティだ。
 
 結果、静雄は臨也の猫耳と猫尻尾をたいそう気に入り、こうして逃げ損なった臨也を見事捕まえて、部屋に連れ込んで、好き放題猫耳猫尻尾を撫でまわすのだ。
 臨也にとっては全くもって不本意極まりない事態だ。

「……ふ、ぁ」
 何度も何度も尻尾をつけ根から先端へと毛並に添って撫でられれば、甘ったるい声が喉からこぼれてしまうのは、臨也の意思じゃない。
「っ、そんなに猫好きなら、弟君ちにでも行けばいいだろう」
 羽島幽平こと平和島幽、平和島静雄の弟が独尊丸という名の猫を飼っていることは有名な話だ。
「そりゃ、ここで猫飼うのが無理なのは分かるけど、さ」
 いい加減古いとはいえ、静雄の暮らす安アパートはペット禁止だが、弟の家に行けばいくらでも本物の猫を可愛がれるだろう、と臨也は抗議する。
 わざわざ自分を殴って、意識こそ失わなかったけれどぐらぐらするくらいにはダメージを与えておいて、誘拐同然に自室に連れ込んで、ケットシーの姿になることを強要する手間に比べれば、いくら超多忙の売れっ子俳優とはいえ弟を訪ねる方がよっぽど手間がかからないはずなのに。
 まして、自分達は本気で殺し合いの喧嘩を繰り広げるほどの、仇敵だというのに。

「あ? こっちのが手触りいいんだよ」
 不意に、耳を撫でられて、ひあっ、と変な悲鳴が零れる。
 本物の猫より手触りがいい、とかそんなの当たり前だろうこっちはケットシーなんだ。
 そんな見当はずれの文句を心の中で呟いてみたところで、撫でられることになれた己の耳と尻尾は持ち主の意思に反して、静雄の手に懐く。
 
 ねぇこんな寒い2月の夜には耳と尻尾を撫でるよりもっとすることがあるだろう?
 そんな文句を、臨也は必死に喉の奥へと呑みこんだ。



 






2/22は猫の日なので
オフ本の「いざにゃ1/8」設定でいざにゃさんでした


いざにゃさんとうさ静ちゃん達は
それぞれ本で出したあれでいちおう話は終わっているのですが
所詮パラレルなので同設定での小ネタというのは
割とぽこぽこと頭に浮かんできます


元の本を読んでない方には不親切ですみません

臨也さんが幼児化して猫耳と猫尻尾がつく話です
とだけ理解していただいておけば問題ないか、と