耳の日




「何やってんだ?」
 ソファには、臨也と津軽がいた。
 体勢的に膝枕でもされているのかと思ったら、少し違った。
 膝枕、なんて寛いでいる様子はない。
 津軽は、とても困ったようにソファに丸めた身体を倒し、臨也は津軽の真っ白でふわふわと長い見事な耳を弄っている。
「うーん、耳の日?だから?」
 ゆるりと首を傾けて、疑問形で臨也が答える。
「なんだそりゃ?」
「知らない?3月3日は耳の日なんだよ」
 だから、と理由にならない理由を挙げて、臨也は眼前の津軽の白い耳を撫でる。
 くすぐったそうに津軽は小さく身じろいで、けれど臨也の好きにさせている。
「なんでそいつなんだ?」
 静雄にだってデリックにだって、長くて立派なウサギの耳はついている。
 なんで津軽なんだ、と問うそれがやきもちであることを静雄は気付いていないが、無論臨也は分かっている。
「津軽が一番ウサギっぽいし」
「は?何だ、そりゃ」
 色こそ違うけれど、本来三人は同一個体であったものだ。全員、紛れもなくウサギそのものである。
「デリックは、あれだよね。うさぎっていうより、ポスペ的な」
「?」
 ピンクのテディベアのキャラクターを知らない静雄には、あいにく臨也の言葉はただの意味不明な独り言でしかなかった。
「シズちゃんは、ウサギじゃないよね」
「ん、だと?」
 ウサギらしくないことはずっと静雄のコンプレックスだった。
 だから、臨也の言葉に当然顔色が変わる。
 だが、臨也にそういうつもりはなかったらしい。
「シズちゃんはシズちゃんだし」
 人型ウサギ、なんて枠組みの中に当てはめることのできない、特別な生き物だ。
「耳、貸して」
 ねだられて、渋々といった表情で臨也の足元へと座り込む。
「……っ」
 臨也に耳を触れることは、得意ではない。
 耳は敏感すぎて、色々つらいのだ。
「ほら、やっぱり全然違う」
 臨也の指が、丁寧に耳を撫で上げる。
 
 ふわふわの白ウサギでもなく。
 ピンクのぬいぐるみでもなく。


 静雄のうさぎ耳を、ひどく愛しげに、臨也が撫でた。



 






3/3は耳の日です

てことで、うさ耳を愛でてみた話