花の色





 序・

 あれは、まだ四木が粟楠会の幹部候補でしかなかった、若い頃の話だ。
 何かの用事で、少し離れた街まで足を伸ばしたその帰り道、通りすがりの集落で不思議なものを見た。
 
 子供だった。
 陽の光に透ける、黄金の髪をしていた。
 こんなところに異人の子か、と意外に思った。
 四木が身を置く粟楠会の商いは手広く、阿片に銃にと異人との関わりも深く、だから、四木を驚かせたのはそのことではなかった。
 異人の子は、数人の一回り身体の大きな子等に囲まれていた。苛められているのだろうと容易に想像はついた。
 不意に、その子が傍らの樹を引っこ抜いたのだ。
 まるで、たんぽぽか何かを摘むみたいに、片手で、容易く。
 大人の腕でも一抱えありそうな立派な幹の、大きな樹を引っこ抜いて、投げた。
 囲んでいた子供達の幾人かは、その豊かに伸びた枝先に薙ぎ払われ、残る子供らも蜘蛛の子を散らすようにあっという間に姿を消した。
 しばらく四木は自分が見たものが信じられなかった。
 いつの間にか、異人の子の姿も失せ、けれど四木の見たものが幻などではなかった証に、まだ青々と葉を茂らせた大木が一本、無残に倒れて転がっていた。
 
 ああ、もしかしてあれは、天狗か鬼の子だったのだろうか、と。
 鬼神怪異を信じぬ合理主義の四木でさえもそう思い、けれどそう思った自分を次の瞬間には嘲笑い、己の見たものを誰かに語ることは一度もないままに、時を過ごした。










四木静 遊郭パラレル 本篇です

この先完全R18なので、どこまでネット公開できるか迷い中