花の色





 気付いたら、こうだった。
 親父もお袋も、弟も、普通に黒かったし。
 俺だけ、こんな髪で。
 鬼の子だとか、天狗の子だとか、散々言われたらしいぜ。
 あんま覚えてねぇけど。
 四木さんが、先祖がえりだろうって言ってた。
 俺のじいちゃんのじいちゃんとか、ばあちゃんのばあちゃんとか、そういうご先祖様のどっかに、異人さんがいたんだろうって。
 四木さんは、学があるから。
 俺の村じゃ、異人さんなんて見たことある奴いねえし。
 苛められてたぜ?……泣いちゃいなかったがな。いや、もっと小さかった頃は、そんな力なかったけど。きかん気な餓鬼だったのは確かだ。

 こういう力が出たのは、もう少し大きくなってからだな。
 こいつは鬼の子だって自分で証明してるようなもんだよなあ。
 そっからは、まぁ、暴れて。暴れて。
 最後は、庄屋さんちの蔵ぶっ壊して。
 壊したもんの金払えって言われたけど、そんな金あるわけねぇし。
 んで、村にいれなくなった。
 弟の幽は、芝居小屋に貰われてった。
 あいつは昔っから人形芝居とか好きだったから、たぶん、上手くやってると思う。
 俺は、人買いって野郎に、自分を売った。
 どうせ、行く宛てなんかなかったんだ。どこに行っても、どうなっても同じだって思ってた。
 え?ああ、まさか、俺にそういう意味で身売りなんてできるって思ってなかったんだよ。
 こう船奴隷かなんかになって、一日中暗い船底で、一日こき使われて、みたいな。
 そういうんなら、まぁ、別に苦じゃねぇしな。
 ……ああ、うん、浅はかだったのは認める。
 で、ここ連れてこられて。四木さんに引き合されて。
 そりゃあ吃驚したぞ?俺が、その、男娼とか…………。
 
 四木さんは……そうだな、俺には、いい人だよ。
 善人か悪党かって言ったら悪党だろうけどよ。
 あの人の姿見ただけで、怯えた顔する奴らとかいるの知ってるし。いかにもって格好したちんぴら共も、あの人にはへこへこ頭下げてるしな。
 
 俺は、別に。
 怖くは、なかったしなあ。
 迷惑かけちゃなんねぇってのは、ずっと思ってたかな。
 金、払ったんだから。
 金の分は、何であろうと働かねぇとな。

 色々教えてくれたぜ。
 あの人は学があるって言ったろ?
 俺は鬼や天狗なんかじゃないって言ってくれたのもあの人だし。
 自分で制御しろ、振り回されるなって、しつこいくらい教えられたしなあ。
 ……まぁ、その、そういうことも、色々。こういうとこいるんだから、覚えておけって。
 だから、俺が今、こうやって力を抑えてられるのは、あの人のおかげだと思うぜ。

 それが常套手段?
 ああ、まぁ、そうかもなぁ。
 俺のために、とかじゃなくて?
 そりゃそうだろ。金出して買った品物、大事に使うってのはいいことじゃねぇのか?
 ……いいんだよ、好意とか善意とか、そういうんじゃなくて。
 
 俺の力を認めてくれて。
 俺が、それを抑えることも自分の意思で使えることもできるって、教えてくれて。
 
 それで十分じゃねぇか。






 





うっかり降ってきた四木静・遊郭パラレルのプロトタイプです

本篇は四木さん視点・三人称なのですが
ちょっと試しに静雄視点一人称で書いてみたもの