不似合な朝 昼の街よりも、夜の街が好きだった。 朝から過ごした狭いぎゅうぎゅう詰めの校舎から解き放たれ胸を張って動き回れる昼の街よりも。 子供は帰れと表向き追い払われながらその闇の奥には誰の目も届かない自由が広がっていて、そこが自分の居場所だとさえ信じていた。 自由で。残酷で。 夜が、明ける。 空が白み、闇が追い払われる。 仲間達は、一人また二人と解散し、正臣も一度家に帰ってシャワーでも浴びようと人気の途絶えた裏通りをゆっくりと歩いていく。 「おはよう」 不意にかけられた言葉に、顔を向ければ、路地から出てくる黒い服の男。 もう6月だというのに、コートを羽織ったその姿は少し異様で、けれど不思議とこの街の夜に馴染む。折原臨也はそんな人間だった。 「おはようございます」 ぺこり、と頭を下げる。 「朝ご飯、食べた?」 「いえ……」 「そう。俺もまだなんだ。行こうか」 「え」 断る間さえ与えずに、先に立って歩く臨也の背を追ってしまった理由なんて。 臨也が入ったのは、裏通りにあるカフェバーだった。 夜明けまではバーとして営業し、夜明けと共にモーニングに切り替わるのだという。 厚切りのトーストに、バター。小ぶりのマグカップになみなみと注がれた濃く淹れたコーヒー。 スタンドに立てられた半熟のゆで卵。小さなカップに入ったトマトとレタスのサラダ。 非の打ちどころのない完璧なモーニングを、涼やかな臨也の声を聞きながら摂る。 晴れやかに美しく、そしてひどく現実味の乏しい、何かの冗談みたいな朝だった。 電車が走り始め、街に人が動き始める。 「ごちそうさまでした」 誘ったのだから払う、と臨也が言い、正臣は素直に頷いて礼を述べた。 「どういたしまして」 じゃあ、また、と。 何気なく別れた、その瞬間の空白を見計らっていたとしか思えないタイミングで。 「ああ、お誕生日おめでとう」 不意打ちとしかいいようのないその言葉に。 とくん、と一つ。 心臓が脈を打った。 |
正臣はぴば! 少し前にツイッターのお題で 「朝のカフェ」で登場人物が「ときめく」、「誕生日」という単語を使ったお話を考えて下さい というのが出て、誕生日、近々誰かいたかな?って思って 正臣の誕生日を思い出した、という……(汗 ごめん、正臣 |