His Dog




 紀田正臣に対する黒沼青葉のこだわりは驚くほど乏しい。
 ブルースクエアの連中には馬鹿正直にあの一連の事件を正臣のせいと恨んでいる者も少なくないと知っているが、青葉の目から見ればあれは百パーセント折原臨也のせいであり、正臣も兄も同等に彼の掌の上で弄ばれたに過ぎない。
 
 将軍。
 彼を呼ぶ名を思い出しては青葉は昏い笑いを堪えきれない。
 将軍。なるほど軍師に指図されるまま兵を走らせ、それを我が手柄と信じる愚かな男に相応しい。
 ただ一つ、理解できないのは彼が今もあの男、折原臨也の掌中に留まり続けることだ。
 あの事件の後、一度彼は臨也から離れた。
 少なくともそうであるかのように見えていた。
 あれは、フェイクだったのか。
 否、紀田正臣は青葉の見る限りそれほど演技上手とは見えなかった。彼は正しく臨也に弄ばれたことを知り、彼に怯え、彼から逃げ出した。
 そのはずだった。



 三度、青葉の前に現れた黄巾賊と彼の向こうに、青葉は臨也の影を探す。
 小競り合い自体はひどく懐かしい気さえした。
 あぁこれはあの頃、勢力をどんどん拡大し、黄巾賊を追いつめかけていたブルースクエアに対して、彼らが反撃に出た時のやり方によく似ている。
 そう思った。
 つまり、折原臨也のやり方だ。

 紀田正臣は、今も。
 折原臨也の、忠実な飼い犬だ。


「なんで」
 では何故あの男は、正臣につけた首輪を今更のように行使する?
 一度はカラーギャングのトップだった男だから、まだ、使い道はある?
 それはそうかも知れないけれど。

 ひっかかる。
 わだかまる。

「……潰したっていいけどさ」
 手駒の一つ潰されたところで、あの男にはきっと痛くも痒くもない。
 
「横取りしたら、どんな顔をするかな」
 あの男のこと、だから。
 ただ、面白がるかも知れない。


 
 けれど。
 その時の。

 折原臨也の顔が見たい。

 まるで魔が差したかのように。
 その時、青葉は思ったのだ。



 






10巻で青葉君が正臣のことを
「折原臨也仕込み」と言っていたのに
激しく何かが滾りました


……そっか そういう認識なんだ





仕込む、という単語に
「お手」「おかわり」とか芸を仕込むっていうよねと連想し
手で、とか「おかわり、は?」とか
色々えろい妄想が過ったことは
すなおに白状しておきます