なに見てはねる





「おいで、満月だよ」
 新宿の高層マンションの最上階。
 大きなガラス張りの窓の前に立って、臨也がうさぎ達を呼ぶ。
「あ、ホントだ」
「綺麗ですね」
「へぇ」
 わらわらとガラスの前に集まってきたうさぎ達は、ピンクと白と黒のうさぎ耳をそれぞれに揺らして、三者三様の返事が返ってくる、けれど。
「それだけ?」
 臨也は、不満げだ。
「「「?」」」
 良く似た顔が、同じように物問いたげな表情で臨也を見る。
「せっかく十五夜なのに、跳ねないんだ?」
 なんだつまらない、と呟く。
「十五夜?なんだそれ?」
 静雄が、首を傾げる。
「うーさぎうさぎ、なにみてはねる、ですね」
 津軽が、童謡の一節を良く響く低音で口ずさむ。
「あー。跳ねるっつうか、まぁ興奮しねぇわけでもねぇぞ?」
「どういうこと……!?」
 臨也が問い返すより先に、デリックが背後からその身を抱きすくめる。
「デリックっ!?」
「こういうこと。……月に照らされてるあんたに、興奮する」
 ぺろり、と。
 弱い耳朶を舐められて、臨也が暴れる。
「離せ……っ」
「あー、そういうことか」
 一拍遅れて、大きく頷いた静雄が、臨也の前に立つと無造作に顎をとらえて、ぱくりと噛みつくみたいに口づけた。

「……ねぇ君達、自分の種族間違えてない? 月見て人を襲うとか、狼じゃないんだから」
 存分に味わわれた唇は、月明かりにとろりと濡れて、うさぎ達の目を奪い、心を捕らえる。
 月が、うさぎの血を弾ませるから。


 いつもより、もっと。
 ずっと。

 その人が欲しくて。

 うさぎ達は、それぞれに臨也に口づけた。






 






十五夜なので、うさぎ小ネタ