A Happy New Yeare





 高そうなワインボトル1本抱えて、酔っ払いが池袋の裏路地にある静雄のアパートを訪れたのは、午後11時を回った頃だった。
 静雄は、今年は特別審査員の一人に幽が選ばれているということで、紅白歌合戦を最初からずっとつけていて、ちょうど年越しそばの、どん兵衛を食べ終わるところだった。
「やぁ、シズちゃん」
 ぽきり、と手の中で割り箸が折れた。
 やっぱり母が強く勧めたように、せめて正月くらいは実家で迎えるべきだった、と思った。

 それが、だいたい50分前のこと。
 歌合戦は、終わって。
 消しそこなったテレビからは、各地の寺院の映像と重く響く鐘の音が流れてくるけれど。
 静雄の耳に響くのは、己の荒い息使いと、抑えても抑えきれない嬌声。喘ぎ。
 ぐちゃぐちゃと淫猥に響く結合部からの濡れた音と、突き上げる度肉のぶつかり合う音。
 目に映るのは、白い肌と、浮かびあがる赤い痕。
 
 なんで。
 こんなことになっているんだ?
 
 浮かぶ疑問は、強すぎる快楽の前に、形を保つことが難しい。
 張りつめた性器に絡みつく粘膜の熱さだけが、ひどく鮮明だ。
 
 考えることが苦手な静雄は、いつだって気が付けば怒りのままに臨也を追いかけて。
 気が付けば衝動のままに、臨也を抱いている。

 同じように快楽に溺れているように見えた臨也が、ふと目を開けて、まっすぐ静雄を見上げていた。
「…?」
 珍しいことだ。
 人間観察を趣味とする男は、けれど情事の最中静雄と目を合わせることなどほとんどないというのに。

 誰もがそれだけは認める綺麗に整った顔が、ふと笑みを形づくる。
 静雄が警戒するよりも早く、その唇は静雄の唇に重なって。

『おめでとう』
 重なりながら綴られた言葉は、声に出されることはなかったけれど。

 あけましておめでとうございます、とテレビから聞こえる声が耳に届いて、少し遅れてその意味を理解する。


 ああ、自分は臨也の中で新年を迎えたのだなあというどこか間の抜けた実感は、来たる年も、ろくでもないものにしかならないだろうという予感しか与えてはくれなかったけれど。
 
 けれど。 
 悪くはないな、と思って。

 離れた唇に、もう一度自分からくちづけた。





 






今年の、ある意味書初めなSS。
除夜の鐘聴いて、年越し確認してからオタクらしくSS書いて寝ました。


今年もいっぱいお話書けますように
そして、読んでいただける皆様との素敵な出会いがありますように