誕生日という口実 1月末。
テレビの気象コーナーは、この冬一番の冷え込みだとか、この冬一番の雪だとか、そんなニュースを連日流している。 そんな冷え込み厳しい東京池袋で、一年中変わり映えのないバーテン服は、通常それが警戒されるのと別の意味でも明らかに目立っていた。 「寒くないんですか?」 少し呆れたような響き。 「こんばんは」 服のことなどほとんど興味もなければ分かりもしない静雄でさえ、きっと良いものを着ているのだろうなぁと分かる程の、上質なコートを身に纏った極道幹部が、穏やかな調子で声をかけてきた。 「……別に、平気っす」 ども、と軽く頭を下げて、静雄が応える。 その頑丈過ぎる身体に比例して人より格段に痛覚の鈍い静雄は、暑さ寒さというものに対しても、人より明らかに鈍い。けれどそれは彼の怪力や治癒力に比べるとあまり目立たない特質なので、あまり言及されたこともない。 「そうですか。……まぁ、見てる方が寒々しいので」 すっと躊躇いのない動作で、四木の手が静雄に向かって伸ばされる。 白。 その色が、静雄の意識を捉える。 白という色は、だいたいいつも四木に伴われている色だけれど。 「…え?」 今日は、ふわり、と静雄の首にその色がかけられた。 一拍遅れて、それが真っ白な手触りのよいマフラーだと静雄は気付く。 「…あの?」 「差し上げますよ」 どこか愉しそうに、四木が言う。 繰り返すが服飾に興味のない静雄であっても、それがとても上質なものだと分かるくらいには、そのマフラーは手触りがよかった。 「でも」 そんな高そうな物を、こんな無造作に貰うのはおかしい、と静雄は思う。 だから、それを四木にもちゃんと言わなければ、と思う。 けれど。 「お誕生日おめでとうございます」 静雄が言いかけるのと同時に言われた台詞に、再び静雄は言葉を失う。 「……」 「プレゼント、ということにしておいて下さい」 どこまでも穏やかで、どこか嬉しそうなその顔に、何も言えなくなる。 その人が、時にどこまでも冷酷にも凶暴にもなれるのだろうということを、心のどこかで知っているからこそ、その顔は卑怯だろう、と思う。 けれど、そんな思いを、きちんと言葉で告げられるほど、静雄の口は上手には動いてくれなくて。 「……ありがとう、ございます」 ぺこり、と頭を下げるのが、精一杯。 「どういたしまして」 さらりと返して。 「では、また」 何事もなかったかのように、その人は背を向けて立ち去ろうとするから。 「四木さん……っ」 静雄は、呼び止めずにはいられなくなる。 呼び止めたのは自分の意思だと、自覚せざるをえなくなる。 「はい?」 「あの……っ」 それさえも、その人の狡さだと本当は知っている。 呼び止めて、口ごもって。 そうして。 ただその人に去って欲しくないのだという自分の心に気付かざるをえなくなるのだから。 |
2012シズ誕SS その2 四木静バージョンです 明らかに間に合ってない時間から書き始めました どうしてあと1日早く準備できないものかなぁ、と よく思います |