懐の窮鳥



「紀田か」
 呼ばれた瞬間、気付かなかったのは、自分もいい加減平和ぼけしていたのだと思った。

 思い詰めた、表情。
 聞き覚えのある、硬い声。

 ああ、そうか。
 納得は遅れてやってきた。

 正直、俺はまだこいつに対して、自分の立ち位置が掴めていなかった。
 こいつにとって俺は、何なんだろう?
 かつての、恩人?敵?
 それだけか?


 思い詰めた顔の少年を残して、席を立つ。
 ここから先は、あいつが決断して進む道だ。
 たとえ、その進路が目に見えていても。
 その道を示したのが俺自身だとしても。

 少しだけ、胸が痛む。

 ああ、そうか。
 そういうことか。

 俺は、他人事のつもりでとっくにこいつにも関わっちまってたんだなあ。

「じゃあな、正臣」

 だから。
 それまで、呼ばなかった名前で呼んだ。

 俺は、こいつを。
 とっくに、身内に数えていたようだ。

「くれぐれも、半端な考え起こすんじゃねぇぞ」


 売られた喧嘩は、受けて立つ。
 そう言った言葉は本心だったけれど。

 懐に飛び込んできた子供は、危うい子供ままで。
 あれと、正面切って対峙することは、少しばかり難しい。

 そんな気がしていた。






ドタチンがかっこよすぎるので
カップリング不可・よこしま禁止な感じで


原作3巻の呼称の違いがツボだったので
アニメではあっさり紀田と呼ばれてしまって傷心でした。