ハッピーバースデー 俺!



「ハッピーバースデー俺!」

 朝一番。
 帝人と杏里のA組の教室を訪ねて、がばっと帝人を抱きしめながらそう高らかに謳えば、帝人は苦笑し、杏里は困った顔をした。

「紀田君……それじゃ、サプライズに、ならないです」
 そっと差し出された、東急ハンズの包装紙。
 誕生日プレゼントが文房具、というあたり、杏里のピュアさに打ちのめされそうなほど幸せな。

 ねぇ、今日の俺ってヒーロー?
 超愛されてね?

 子供だ、と笑われてもいい。
 特別な、一日。

 その、全てを。
 壊す、ように。

 午後11時59分。
 携帯が震えて、短いメロディを歌う。メールの着信を告げる、歌を。

 待ち受けに、着信サイン。
 受信ボックスを開いた瞬間。
 息が止まる。
 心臓も止まる。
 
「……っ」

 折原臨也。
 
 表示された着信者の名前に。
 指先が震える。

 開くな。
 読むな。
 削除しろ。

 そう心の隅のレッドアラームが告げているのに。


 震える指先が、メールを開く。


『誕生日おめでとう、紀田正臣君』

 饒舌に過ぎる彼には似つかわしくない、たった一言のメールに。
 無意識に心は続きを求め、求めるそれが得られぬ失望を覚える。


 何で僕が君の誕生日を知っているか?って。嫌だなぁ、紀田君。僕の仕事を何だと思っているの?僕は、情報屋だよ。君の、誕生日も。スリーサイズも血圧も心拍数も赤血数も、君が望むなら、全部、答えてあげるよ。

 鼓膜を震わせるように蘇る、かの人の語り声。

 もう一度、携帯のディスプレイに目を落せば、既に日付は変わり。



 彼のことを、想いながら。
 今年の誕生日が、終わる。







正臣お誕生日記念SS


某方が正臨なので真似てみました