万愚節小咄 第二夜

〜新羅とセルティ〜








 「トリックオアトリート!」
 運び屋の仕事を終えて川越街道沿いのマンションに戻って、自宅の玄関を開けたら、白いお化けがそう叫んだ。
『……何をやっているんだ、お前は』
 白いお化けの正体は、ただいつもの白衣を前後逆に頭からかぶっただけの、新羅だ。
「トリックオアトリート。お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうよセルティ。僕は別に静雄君みたいに甘党じゃないからお菓子をもらうより君にいたず痛たたたセルティ痛い刺さってる刺さってる!」
『一体何の真似だ、それは』
「少なくとも舞浜の遊園地の真似じゃないよ?」
 白衣を着なおして、新羅は笑う。
「あれはアメリカのハロウィン。君の方が、本場の生まれだろう、セルティ」
『そうなのか?』
「うん。ハロウィンは元々アイルランドの風習だよ」
『……ハロウィンなんて覚えているものか。自分の過去さえ思い出せないのに』
「あああセルティ怒らないで!そんなつもりじゃないんだってば。ただね、ハロウィンていうのは幽霊とかお化けとかそういう人間以外の存在が、自由に出歩く夜だからさ。君がそんな無粋なヘルメットを外して、素顔のままの一番綺麗な君で一緒に街を歩ければいいなって思っただけだよ」
 えへらといつもの顔で新羅は笑い。
『私はそんなへんてこなお化けと一緒に歩くのはごめんだ!』
 PDAには、そっけない返事。
 けれど、新羅はPDAには目もくれず、照れるセルティはやっぱり可愛いなぁとさらにしまらない顔で笑み崩れた。