万愚節小咄 第三夜

〜平和島兄弟〜








Sub;(no title)
『撮影終わった。近くにいるから今から行っていい?』

Sub;おう
『待ってる』




 そんな一言メールの後、5分で弟が訪ねてきた。
 手には池袋の駅前で主に女性が持っているのを見かける洋菓子屋の紙袋。
「これ、お土産」
「お、いつも悪ぃな」
 それが菓子屋の袋だと知っている静雄の表情は、目に見えてゆるんでいる。
「お? プリン、か?」
 語尾が疑問形になったのは、見慣れたプリンの優しい卵色より、もっと色濃いオレンジ色だった。
「かぼちゃプリン?」
 紙箱にずらりと並ぶのは、深い緑色の、カボチャを模した形の陶器のカップに入ったプリンが並んでいる。
「うん。兄さん、好きだと思って」
「ありがとよ」
 可愛らしいカップ入りのかぼちゃプリンが好きそうだと言われた兄は、その言葉を全く否定することなく、二つ取り出したカップの一つを幽の前に、もう一つを自分の前において、いただきます、と手を合わせた。

 半天使半悪魔のコスプレが世界一似合うスーパーアイドルとその兄にとって、ハロウィンとは季節限定のプリンが出る時期の呼び名にすぎない。