万愚節小咄 第五夜

〜 いざにゃ 〜
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 平和島静雄は、折原臨也もといノミ蟲が大嫌いだった。
 だが、ケットシーと化した臨也のことは、特にその耳と尻尾は嫌いじゃなかった。

「何スかあれ」
 取り立ての途中で、妙なものを見た。
 見覚えのある女が、黒い猫の耳とふわふわした尻尾をつけて歩いていた。
 その横にいる男にも見覚えがあった。
 ああボールペンで刺してきた奴だと思い出したのは、完全に二人の姿が見えなくなってからだった。
「ああ、ハロウィンじゃねぇか」
 物知りな上司が、仮装してかぼちゃを飾る日だと教えてくれた。
 トム自身はもう少し詳細に詳しくハロウィンとはどういうものか知っていたが、静雄に端的に説明するにはそれで十分だと分かっていたのだ。


「ちょっとシズちゃん横暴!」
「うっせぇ、黙ってろ」
 小脇に、ケットシー化した臨也を抱えて、外にでる。
「……っ」
 部屋でくつろいでいたから、耳を隠すフードつきのコートを着ていない臨也が、あからさまに焦っている。
 けれど。
「わー、可愛い」
「ね、見て見て!あれ、超よくできてね?」
 すれ違う人達が、笑顔で臨也を見ていく。
「……」
 予想していたものとはなんだか反応が違う、と臨也は思った。
 実在する首なしライダーに、どれだけの人間が恐怖してきたか知っている。人外のものに対する人間の反応とは本来、あああるべきなのだ。
 が、元来ケットシーは、無害な猫妖精。そもそも恐怖される存在ではない今日は、ハロウィン。
 街には居酒屋の呼び込みも含めて、ちらほらと仮装の人間がうろついている。
 そんな中で、静雄の小脇に抱えられた猫耳の子供など、ただの可愛らしいよくできた仮装でしかなく。
 せいぜい今頃ダラーズ掲示板に、何度目かの平和島静雄隠し子疑惑が書き込まれているくらいだろう。
 気に入らない。
 相変わらず抱えられたまま、臨也は思いきり拗ねていた。


 可愛いと臨也を褒める声を聞きながら、がつがつと歩いていく静雄が、散歩中に愛犬を褒められて得意満面な飼い主気分だったなんて。
 知らぬが仏というものだ。