さあ戦争を始めよう
        (2010.08.14)
R-18

  18才以上で、性的表現の平気な方は、スクロールで本文サンプルをどうぞ。




































「痛……っ」
 枕に顔を押し付けて、押し殺した悲鳴。
「臨也?」
「……大丈夫、だから、続けて」
 シズちゃん、と呼びかける語尾が震えている。
 心配になって、その顔を覗きこめば、ただでさえ色白の顔は、もう白いなんてものじゃなく、明らかに青褪めて、とんでもない顔色になっている。
「……っ」
 静雄に見られていることにワンテンポ遅れて気づいたのだろう、慌てて顔を背けて目元を隠すけれど、その眼尻に涙が溜まっていたことだって、ちゃんと静雄は気付いていた。
「……」
 明らかに無理だ、と全身が語りかけていた。
 しなやかで鍛えられている身体は、どこからどう見ても男のもので、せめて脂肪層でもあればもう少しごまかしもきいたかもしれないが、あいにく臨也には柔らかさのかけらもなかった。
 引き締まっているのは、男同士の性交を可能にする唯一の代替器官についても同様で、古今東西、歴史書を紐解けば同性愛などありふれたもので、つまり先人の知恵によれば絶対使用可能であるはずのその器官は固く閉ざされて、頑として他者の侵入を拒んでいた。
 指先をほんの一関節分差し込んだだけで、これだ。
 自動販売機を投げつけるよりも道路標識で殴りかかるよりも、自分がひどい暴力をはたらいている気がして、静雄の罪悪感は増すばかりだった。
「……」
 溜息を押し殺し、指を抜く。
 先ほど互いに触り合って高めたはずの互いの性器は、既にすっかり萎えていた。
 臨也は、強すぎる苦痛によって。
 静雄は、罪悪感によって。
「大丈夫、だから」
「まぁ、落ち着けや」
 落ち着いてないのは本当は静雄もだったけれど、なんとか自分を抑えて、そう告げる。
 ここまで来ておいて、失敗する、というのは互いの今後を考えると非常に気まずいことになりそうなのは想像に難くないので、臨也の必死さがわからないでもない、が。
 どう考えても無理だった。

 うっかり力をこめて肋骨に守られていない内臓を押しつぶしてしまわないように慎重に、薄くなだらかな腹を撫でる。
 脂肪なんてかけらもない、けれど薄いなりにしっかりと筋肉に守られた腹から、ゆっくりと手のひらを滑らせれば、髪と同じ、艶やかな黒の下生えに触れる。
 その下に、今は柔らかく戻った、性器。
 自分のものとは明らかに違いすぎるそれに、うっかり「小さ、」と呟いて、軽く膝蹴りをくらったのは、先程のことだ。
 臨也の名誉のために付け加えるなら、臨也が日本人成人男子の平均に鑑みて小さいということでは決してない。
 単に、その身体性において非常識な静雄が、身体の一部である器官についても規格外だったというそれだけだ。
 自らの一物と見比べ、半勃ち以下のこの現状での差を思うに、やはり無理じゃないのか、と思う。
「今、すごく腹が立つことを考えただろう」
 鋭すぎる指摘。
 折原臨也はこんな時でさえ、他人の考えを読むことに長けている。
 否定はしない。
 男として腹が立つかもしれないが、相手を思いやってのこと、なのだ。