itself  add. 

 「綺麗な髪」
  無造作に見えて。
  決して金蝉の領域を不作法に掻き乱すことない動きで、天蓬が手を伸ばしてくる。
  金蝉の長い髪を掴まえる。
  不快、ではないが。
  理解、もできない。

 「綺麗な指」
  そう指を絡める天蓬の仕草は、ひどく艶めかしく。
  その意図をはかりかねて。
  金蝉は言葉を噤む。

 

  天蓬は、金蝉のことを綺麗だという。
  臆面もなく、その単語を繰り返す。
 
  だから。
  金蝉は、綺麗という言葉の意味が分からなくなる。

  自分のことを、綺麗だなどと思ったことは一度もなく。
  目の前のこの不思議な存在を、綺麗という言葉で呼ぶのが正しいのかどうか、金蝉には分からない。

 
  よれよれの白衣。よれよれのズボン。
  だらしないネクタイ。
  どう考えても。
  これを「綺麗」とは、呼ばない───はずで。
 
  けれど。
  永遠の春に咲き乱れる花にも。
  精緻を極めた美術品の数々にも。
  何一つ揺らされたことない、この心に。

  たった一つ、語りかけてくる存在は、彼しかない。
 
 「綺麗な眼」
  天蓬の掌が、己が顔に触れる。
  その言葉につられるように、金蝉もまた天蓬の眼を見る。

  この天界には珍しい、無彩色のいでたちの中で。
  ただ一つ色を湛える、翡翠の瞳。
 
  ああ、と思った。

  掛け値なしに、「綺麗」と思えるもの。
 

  お前の方が綺麗だ、なんて。
  歯の浮くような台詞なら、幸い持ち合わせてはいなかったけれど。

 「………誘われてやるから、黙ってろ」
  不思議なぐらい、すんなりと。
  口づけを交わせたのは。
 
  やっぱり。
  彼、だからだと。


  心のどこかで、思っていた───。
  

'02.09.29 p.m.09:18



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  ということで、itself・金蝉sideでした。  itselfを落書きしたその日にUPして 翌日、また書きたくなった、という(^^;; 九城の作品をいくつか読んで下さった方は たぶん十分ご存じかと思いますが こういう一つの場面を 互いの視点で...ていう書き方、 好きなんですよねぇ。 Library Top / Entrance