Tangent

・07・


「そなたの探す師の形見、聖天経文が使われている可能性があります」
 三仏神の言葉に。
 胸の底に、押し隠してきた傷が開く。
 今という時間が、いっきにあの朝に繋がる。
 失われた経文。
 
 だから。
 別に今に始まった話じゃないのだ。
 
 雨とか。
 朱泳とか。
 関係ない。
 ただ。
 自分が、どの程度みっともなさを晒さずにいられるか。
 それだけだ。
───ダセえ真似をした。
 ただ、それだけを考えた。
 それが、他の全てから、目を逸らすことだったとしても。
  
「お揃いの傷なんて僕は御免ですから」
 そんな勝手極まりない台詞で、心配と制止を同時に投げ込めるのが八戒という男なら。
  
「一人で出ていきたいなら、そっちの窓からどうぞ」
 そう、言ってのけるのが、悟浄という男だった。
 
 真紅の瞳と、翡翠の瞳。
 正反対の色だからこそ、互いの美しさを引き立てるのだとは、大切な人の、大切な教えで。
 それは、どこか、彼らにも当てはまる気がしていた。
 いつから、彼らは、こんなにも当たり前に、自分の目の前にいるのだろう。
 いつから、自分は、こんなにも当たり前に、彼らが目の前にいることを受け入れているのだろう。
 バカ猿じゃあるまいし。
 三年前の出逢いなら、それこそ、一言一句覚えているけれど。
 
 そんな覚えていると言うこと自体が、実はおそろしく特異なことだ、と。
 そおうと分からない位にはやっぱりバカではない自分が、──気付いてしまう自分が、時に疎ましい
と思う。
 
 ふん。
 くだらねえ。
 
 そうして。
  
 切り捨てた。

    

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