あの日の恋 / 二度目の恋





「杏里ちゃん、かい?」
 揺れる、プリーツスカート。
 肘から。掌から。
 まだ、少女でしかない頼りない四肢から、生える長く鋭い日本刀。
 記憶、そのままの。
「罪歌」
 その名を、呼ぶ。
「赤、林、さん……」
 少女の声が、震えた。


 ああ。
 これは違う、と思った。

 あの日の彼女と、同じ姿。
 確かにこれは、あの日と同一の切り裂き魔という化け物に間違いはないのに、赤林の心は、あの日のようには震えない。

 ああ、そうか。
 俺が惚れたのは「切り裂き魔」ではなく、「園原沙也香」という女だったんだなぁ。
 あの日から何年も経って、今初めて、赤林はそのことを確認した。

「ありがとよ、杏里ちゃん」
「……はい?」
 唐突に礼を告げた赤林に、杏里は不思議そうな顔をして、小さく首を傾けた。
「こうしてあんたに会えて……よかったよ」
 しみじみ、と、赤林はそう杏里に言った。
「杏里ちゃんは、女将さんによく似てるねぇ」
「そう、ですか?」
 今度は少し困った顔。
「好きな人は、できたかい?」
「……っ、」
 あからさまな、動揺。
「そんなん、じゃ……」
「そうかい、そうかい」
 自然に零れる笑み。
『娘と夫に手出ししたら、その時は全力で斬ります』
 そう告げた時の彼女によく似た覚悟を、その赤い瞳に宿した杏里が、大切な誰かのために戦っていることは、一目瞭然だった。
「そうかい……じゃあ、おいちゃんも覚悟を決めねぇとな」

 そう言って、赤林は深い笑みを口元に刻んだ。



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