The Melodies of Psychedelic Dreams Prologue それは、インターネットから始まった。 フリーソフトの配布サイトに、いつの間にかアップされていた、音楽用ソフト、Psychedelic Dreams。 このソフトを通して音楽ファイルを開くと、画面に出現する3Dのキャラクターが歌い踊っているように音声変換されるというものだ。 その頃インターネットの動画サイトを席捲していたボーカルシンセサイザーは、一般向けといっても一定の知識と技術を必要とするものであったのに対して、サイケデリックドリームスは既存の音楽ファイルを再生するだけでよいという手軽さが受けて、瞬く間に大流行した。 当初より著作権への抵触が危惧されており、また事実それらの変換された画像が動画サイトで数多く投稿されるようになった頃、ソフトは元々の配布サイトから姿を消した。 だが、流行は下火になるどころかさらに加速され、ウエブ上の各所で二次配布が続けられた。 そんなサイケデリックドリームスの流行を苦々しく見守っているのは、音楽業界の人間だけではなかった。 オリジナルのサイケデリックドリームス、略してサイケと呼ばれるそれは、青年のキャラクターだった。 黒い髪。白い肌。赤い瞳。 細身だが、華奢とは違う、均整のとれた体つき。 サイケを見た池袋の人間の、何人もが呟いたものだ。 なぁ、これって。 折原臨也に、似てねえか? それって、偶然? 動画サイトのランキングで、跳ね回るように楽しげに踊りながら、人気絶頂のアイドルグループの歌を歌っているキャラクターを見て、折原臨也は憎々しげに顔を歪めた。 似ている?偶然? 冗談じゃない。 このソフトを作った人間は、故意に臨也をモデルにしたのだ。 臨也の声をサンプリングし、人間の生の声だけが持つ複雑さを整え、どこか単調な機械の歌声としていた。 画像とて臨也自身の写真やビデオを合成されたのなら、肖像権侵害で訴えることもできるが、製作者は巧妙に、マンガやゲームに出てくるいわゆる萌えキャラっぽくデフォルメすることで、ぎりぎり回避している。 自発的に。人から人へ。 広がり続けるフリーソフトを止めることは、情報屋折原臨也であっても困難なことだった。 臨也には、ただ自分に酷似したキャラクターが見知らぬ誰かのパソコンのディスプレイ上で歌い踊り続けていることを想像し不快さに耐えることしかできないのだ。 → |