ひよこ



 祭の熱気。人いきれ。
 静雄の腰の高さほどしか背丈のない、すれ違っていく子供の手にぶら下がった赤いビニール紐の持ち手がついた透明なビニール袋の中で黄色いひよこがぴいぴい泣いていた。

 潰してしまいそうだとい怯える静雄は、どちらかといえば、何の疑問もなくひよこの生殺与奪権をその手に握っていられるあの小学生より、ひよこに似ているとトムは思った。
 まず、色彩的に。
 そういえば、おもちゃの機関車の後をひょこひょこついて歩くひよこをテレビで見たことがあった、とふと思い出す。
 一歩か二歩分下がって、自分の後をついてくる静雄をちらりと見やって、ますますその思いを強くする

 思いついたら、あまりにもその喩えがぴったりの気がして、こっそり口元をゆるめて笑ってしまった。
 むろん背後の静雄は、気づかない。

 どれだけ大事にしたいと思っても、一、二週間もすれば死んでしまうような、儚い生き物ではなくて。
 丈夫で。頑丈で。
 でもって、ちょっとばかり乱暴で、凶暴な、でかいひよこ。
 可愛いもんじゃねぇか。
 なぁ?

 心の中で、誰にともなく、そう語りかけて。
 
「静雄、ちょっと早いけどメシにすっか」
 振り返って、そう呼びかける。
「っす」

 お腹が空いたというよりは。
 餌をやりたくなった。

 なんて、本音は。
 本人には絶対内緒だ。








「弱く 儚く」の続きみたいなもの